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燃焼

   

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暁光は剣となりて【在りし日の血族】


 番外編第四弾。
 ツナ、ジョット、スクアーロ、ディーノの面々の昔話。



 






【在りし日の血族】

 ぼうっと目の前の光景を眺める。

「ツナ」
「はい」

「ツナ」
「どうぞ」

「ツナ」
「俺はやめといた方がいいと思います」


「……何て言うか」
「言うな。それ以上言えば殺すぞ」
 口を開けた瞬間に、同じく目の前の光景を眺めていた親友に、剣を突きつけられた。
 転化して四百年のスクアーロだ。血族こそ違えど、転化の前から親友であるディーノは、もう少し大人しくあってほしいと嘆くが、このスクアーロに限ってそれは無い。
 物騒な得物を長い指で下げさせる。
 けっと鼻で笑ったスクアーロは、それでも一応は剣を仕舞った。強いから、成り上がってこんな振る舞いが出来るのか、いや、こいつの場合、ディーノに対してだけ色々性格が破綻している気がする。
 視界に落ちてきた金糸をさらりとかきあげ、壮絶な色気を放つ瞳はまた、最初に見ていた光景に戻った。
 カラーリングこそ違えど、良く似た顔の若い二人がいちゃついている。
 片方は電動式ベッドの背を起こし、そこに寝ていた。若干熱っぽいらしく、ぼうっとしている。白いシャツを胸元まで開けているが、ディーノのような色気を発することは無く、青年だと言うのにまるで子供のような幼い雰囲気だった。
 もう一人は、ベッドにいる片割れを甲斐甲斐しく世話している。名前を呼ばれては律儀に何から何まで面倒を見ている。顔は良く似ているがもう片方より少し若く見えた。
「……『跳ね馬』だったな」
「はい」
 ベッドに寝ていた方に声をかけられ、ソファに沈んでいた体をしゃんと立ち上がらせる。隣のスクアーロも同じように立ち上がった。恐らくここでしか彼の最高の佇まいは見れないだろう。
 ディーノの頬に冷や汗が流れる。
 目の前にいる一人は、吸血鬼にとっては神に等しい存在だ。緊張で吐き気がする。
 しかしここで気を抜く訳にもいかない。ひとまず、仁義だけは通さねば。
 薄く息を吸い込み、腰を折り曲げた。
「お初にお目にかかります。『炎帝ボンゴレ』、源泉にして黒き血の体言者。炎の如く気高き魂を持つ者。夜の帝王よ。私は『跳ね馬』ディーノ。『導手キャバッローネ』の血に連なりし若輩者です。夜の一滴に過ぎぬ身なれば、大洋たる御身の鼓動を妨げぬことを」
 柔らかく笑う気配がする。
「そう畏まるな。キャバッローネとは懇意の間柄だった。先代も良く知っているぞ。今回のことは残念だったな。亡くすには惜しい男だった」
「そう言って頂ければ、父も本望でしょう」
 そしてようやく顔を上げた。
 『炎帝ボンゴレ』は微笑んでいる。
 欧州一の血族の始祖。偉大な吸血鬼だ。
 その吸血鬼の視線がちらりとスクアーロに向いた。
 スクアーロは『炎帝ボンゴレ』の血族だ。今回、始祖に挨拶に行くと分かった時、真っ先に頼り、こうして今も紹介してくれた。
 しかし、色々と悪い、というか破天荒な噂を持つのも確かだった。
 彼自身、始祖の前に行くことを迷っていたが、ディーノが頼み込んで付いてきてもらったこともある。
 頼むから、勘気だけは被ってくれるな。
 スクアーロは静かに始祖の目を見返す。
 何か言おうとして言えず、ディーノがかちこちに硬直していると、始祖はにやりとした。
 軽く目に力をこめる。
「面白いやつだな、若僧」
 始祖が言った瞬間に、スクアーロの全身が跳ねた。
「スクアーロ!」
「っ!」
 スクアーロの目は始祖の視線に囚われて離れない。
 視線を介して行われる催眠術だ。相手を覗き込み、記憶を荒らして回り、他人を思いのままに操ることさえ出来る。年経た吸血鬼であればあるほど、強力なそれ。始祖の術に例え四百年の吸血鬼でも抗えるはずもない。
 始祖の術など、下手をすれば死に至る。
 血の気が引いたディーノの前で、始祖は言った。
「ほう、なるほど。やはり面白い男だ」
 微動だに出来ない拘束は、始祖が瞬いたことで終わった。
 がくりと床に膝をついて荒く息をするスクアーロ。その目は、術から逃れたと言うのに、それでも始祖の目から離されない。対して始祖は、まるで挑発するかのようにスクアーロを笑った。
 慌てて、スクアーロを守るようにして、ディーノは思いっ切り頭を下げた。しかし口を開くと同時に、始祖に似たもう一人が言う。
「大変だね、ディーノさん」
「えっ、あ、ああ」
 おかげで謝罪の言葉が途切れてしまって慌てふためく。しかし始祖はのんびりとしていて気にも留めていなかった。
「……おい」
「ん?」
 ぜいぜいと息をしていたスクアーロが、ぎろりと光る目を吸血鬼に向ける。
 始祖が寝ているベッドにちょこんと座った吸血鬼。
「あんたの、名前は?」
 ぱちくりと丸い目を瞬かせた後、彼は呆れを含んだため息をついた。
「さっきの今でそれかよ。俺関係無いじゃん」
「うるせぇ! 涼しげな顔しやがって、気に食わねえんだよ! いいから名乗れ!」
「あんたが暑苦しいだけだろ。長ったらしい銀髪なんざ、羨ましい。何でそんなにストレートなんだよ!? ハゲろ!」
「ハゲるかぁっ! 剛毛め、お前こそ禿げ上がれぇっ!」
「スクアーロォ! 『炎帝』の前だぞ!?」
「いいぞ、ツナ。生意気な若僧なんぞ捻り潰せ。剛毛を馬鹿にするなど万死に値する」
「『炎帝』ぃ!?」
「名乗る気はあんのかねぇのか、どっちだぁ!?」
 言い放ってスクアーロは立ち上がった。
 まだよろよろとしてはいるが、吸血鬼の目をしっかりと見抜く。
「教えろ」
 丸い目が、静かに細まった。
「名前を聞くなら、まず自分が名乗らなきゃ」
 始祖と良く似た笑みを浮かべ、吸血鬼はスクアーロを促した。
「ス、スクアーロ」
 ディーノからもたしなめられ、スクアーロは舌打ちした。
「……『炎帝ボンゴレ』に連なる『剣聖』テュールの子、スペルビ・スクアーロだ」
「はじめまして。聞いたことがあるよ。『二代目剣聖』のスペビっ!」
 吸血鬼がぷるぷると震えながら俯いた。
 かわいい。
 ディーノが思わず幸せな表情を浮かべる横で、スクアーロが所在なさげに頬をかいた。
 どうやら舌を噛んだらしい吸血鬼の方々に跳ねた頭を、始祖が撫でている。その目はスクアーロを非難していた。
「(……俺か!? 今のは俺が悪いのか!?)」
「(いいから早く謝れよスクアーロォ! 何なんだよ、俺は挨拶に来ただけなのにぃ!)」
「(黙れへなちょこっ!)」
「(お前のせいだろスクアーロ!)」
 声には出さずに思考で怒鳴り合う。
 吸血鬼の力を無駄に使いながら慌てふためく二人をよそに、ようやく回復したらしい吸血鬼が涙目をぬぐった。
「スペルビ・スクアーロ。うん、スペルビ・スクアーロね」
「お、おう」
「俺は『炎帝ボンゴレ』に連なる吸血鬼。源泉からキスを賜った、沢田綱吉と言います。よろしく」
 ディーノの目が光速で最大限に見開かれる。
 にこにこと笑う綱吉を呆然と眺めるスクアーロは、さっきの記憶を抹消したいと思っていた。
「そういうことだ」
 始祖が綱吉の首に腕を回して抱き込んだ。
 不適に笑む彼は、彫像と貸した二人に傲然と言い放った。
「これは私の一番目の子、可愛い可愛いツナだ。これからお前達とは長い付き合いになるはず。あまりいじめてくれるなよ」
 特に、と視線がスクアーロに向く。
「お前だ」
 びくりと震えたスクアーロと、泣き出したいディーノの前で、綱吉は笑んでいた。
 彼にもきっと分かっていなかったに違いない。
 スクアーロは確信していた。
 あの時の、始祖の言葉の意味を。
 そして優しくも厳しい始祖の行動を。
 綱吉は、分かってはいなかった。

 百五十年後に、ようやく二人して思い知るまでは。

 そして今、マーモンと対面するザンザス。
 それを俺は陰から見守っている。
 いけすかない術師だが、必要なのだから仕方ない。あちらもこちらも色々と振り回されている。
 そう、『アルコバレーノ』を吸血鬼にした古血に、だ。
 スクアーロは薄々感づいてはいた。
 そんな馬鹿な真似をするのは知る中で一人だけだ。
 もしかしたら違うかもしれない。
 だが、理性ではそう思っていても、感覚は叫び散らしている。
 これはあいつの仕業だ。あいつがやったんだ。そうに違いない。でなきゃ他に誰がこんなことを出来る?
 こんな破天荒なことを出来る?
 あれから百五十年後に、俺達は道を違えてしまった。だがそれを後悔したことは無い。
 ザンザスは王の器を持っている。
 例えダムピールだろうが、彼は王になれる。それを信じて俺はついて行く。
 闇に潜み、スクアーロは嘆息した。
「ツナ……」
 炎帝はあの時、俺に術をかけた。
 記憶や感情、スクアーロの信念全てを漁り回った。そして最後に囁きを一つだけ残していった。
 あの囁きこそが、元凶だ。
 ツナ、と胸の内で呟く。
 怒っているだろうか。俺を許しはしないだろうか。
 強く平凡な優しい吸血鬼。
 スクアーロが、守りたいと思った初めての吸血鬼だった。
 玉座の会談はもうすぐ終わるだろう。
 スクアーロは、玉座に座る綱吉を想像してみた。
 きっと彼の場合、玉座に姿が埋もれてしまうに違いない。
 彼は小さな背たけだった。
 スクアーロは、苦笑した。





 ――守りたければ守れ。
 ――お前の剣は、信念の剣だ。
 ――だから、いずれ、誰かを裏切るだろう。
 ――それでも、貫き通すならば――

 ――守ってみろ。






後書き
 番外編第四弾。
 ディーノとスクアーロが綱吉達と出会った話です。
 まあ、出会いしか書けていないしネタバレっちゃあネタバレなんですが、ちょっと書いてみたかった。この後どうなったかはおいおい本編で明らかになる予定です。


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