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燃焼

   

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暁光は剣となりて【銀環を捨てた少年の話:中③】


ツナ「中二病?」
むくろ「中二病です」
ジョット「ち、違うぞ、これはだな、そういう演出なのだ!」

獄寺「……帰りてえ」



 そんなお話です。

 さあ、わめくのよ。
 ぎゃあぎゃあとうるさいぐらいにね。
 耳をつんざくような、けたたましいわめき声をあげて、あなたは走り続けるのよ。
 突っ走って、馬鹿みたいに一直線に突き進むの。

 それからよ。
 それから、あなたは、本当に。

 ほんものの、私の――に、なるのよ。





暁光は剣となりて





 にわかには信じられない話だった。
 獄寺は言葉を無くした。
 衝撃の対面に衝撃の宣言の後、四人は寝室からリビングに移り、話を続けていたのだった。武骨な木を切り出したテーブルを囲んだ話は、話と言えど、ジョットがまくし立て、綱吉が時折補足するぐらいで、他の誰も口を開かない一方的なものだった。
 怒涛の勢いで語られたそれは、獄寺が幼い頃に聞いたおとぎ話かと思うほど、馬鹿馬鹿しく、現実味に欠けていた。
 いわく、吸血鬼は存在する。ある強い意志が『始祖』を生み、『始祖』は血を分けることで人を転化し『血族』を得る。『血族』も同様に血を分けることで、人を吸血鬼に転化させるのだという。そうして、脈々と太古より受け継がれてきた血は、大小様々な『血族』となり、夜の世界で日々暗躍を続けている、らしい。
 獄寺は、涼しげな顔をしているジョットをちらりと見た。
 多岐に渡る血の種類の中でも、かなりの大血族の部類に入る『炎帝ボンゴレ』。その、『始祖』がこの男であると言う。『始祖』がいなければ、その血族は存在しない。血族の『源泉』たる『始祖』は、例え血族が違ったとしても畏怖し、敬われ、まるで神の如く扱いを受けるらしい。
 得た知識を反芻しながら、獄寺はため息をついた。
「……今まで生きてきて、吸血鬼なんか、見たことねぇよ」
「当たり前だ。いたらいたで人は騒ぐ。俺達が身を隠そうと思うのに、大した時間はかからなかったぞ」
 ふふんと鼻を鳴らしたジョットは、隣に座る綱吉の頭を撫でた。
「なあ、ツナ。大変だったよな」
「そのたび、辺りを盛大にかき回したもんね、あんた」
「それは大目に見てくれ」
「……基本的に被害を受けるのは僕ですが。それも一方的に」
 ぼそりと呟いた骸はさておき、獄寺はもう一度大きなため息をついた。
 父親の意図が分かってきた気がする。
 キーワードは一つで事足りる。『源泉』、だ。
「君の父が命じたのは、この『吸血鬼の始祖』の血を奪ってこい、ということですかね」
「……多分」
「それで、炎帝。この小僧にあなたの血をくれてやる気はありますか?」
 問う骸に、ジョットは鼻を鳴らしてみせた。大仰に肩をすくめて言う。
「無い。それなら骸にくれてやった方が遥かにマシだな」
「ん、俺も何かやだな」
「ほう、ツナ。妬いてるのか?」
「いや、別に」
「可愛いやつだな、お前は!」
「別にって言ってんじゃぶえっ」
 小さな少年を絞め殺さんばかりの勢いで抱きしめたジョットをよそに、獄寺は唇を噛んだ。
「ダメだそうですよ? どうします?」
 骸の問い掛けに対する答えも持たない。
 視線をテーブルに落とす。
 吸血鬼は永遠の命を得るという。
 そしてともに人知を超える力も。
 まるで魔法使いのように、ものを動かし、人を操り、永い永い年月から勝ち得た知識と経験から、まるで容易く人の世を動かせるのだ。
 心ひかれるものはある。それだけは間違い無い。
 血を欲しがる人間はいつの時代にもいる、とジョットは不敵に笑いながら、そう言っていた。
 だが、人を捨ててまで、欲しがるものなのだろうか。
「……俺は」
 答えられない。
 父親の望みを知った今、素直に命令を実行する気は失せてしまった。
「しばらくここにいるといい」
 不意にジョットが告げる。
 はっと顔を上げると、彼は言う。
「お前は、ここにいなければならないのさ。しばらくな、しばらくは。人の子、少しぐらい寄り道した方が、正しき道に近いこともあるのだぞ」
「……ジョット」
 ちらりとジョットを見上げて、困惑げに名前を呟いたのは綱吉だ。
「別にいいだろう。そうしなければならないのだから」
「……本当に? 駄目だよ、巻き込んじゃ」
「いいか、ツナ。勝てぬものもある」
 諭すように言われ、綱吉は口をつぐんだ。まだ何か言い足りないらしいが、獄寺の訝しげな視線に気付いて、口をとがらせるだけに留めたらしい。
 丸い目は獄寺を攻撃的に睨む。
「俺は早めに帰った方がいいと思うけど……」
 獄寺が残ることに不満らしい。
 歓迎してもらえるとはとても思っていなかったが、しかし実際に難色を示されると気分の良いものではない。特にまだ若い獄寺が、若干の苛立ちを覚えたのは仕方のないことだった。
 真っ向から綱吉の目を見る。
 第一印象は非常に良かっただけに、態度が急変したことに少しだけ落胆した。
 綱吉はふいと視線を逸らし、鼻を鳴らし、
「そうです。炎帝諸とも消えなさい。そして僕と綱吉君とふたりっきりの愛の営みをっ」
 そして余計なことを声高に言った骸の頭をぶん殴った。
 そんな三人の様子をジョットはにんまりとして見ていた。



 その夜、なかなか寝付けなかった。
 寝返りをうてば、ぎしりと木のベッドが鳴る。窓辺に置かれたせいで、星と月の光に照らされる。どうにも眩しい気がして、布団を頭から被った。
 獄寺が泊まるにあたって、浮上したのは寝床の問題だった。
 客人が来ることなど想定していないこの家には、ベッドは人数分の三台しかない。ジョットと綱吉の部屋に二台と、骸の部屋に一台だ。誰か一人は床の上で寝なければならない。急に泊まらせてもらうのはこちらなのだから、と遠慮したが、ジョットが断固として譲らない。そのくせ、自分のベッドが変わるのは嫌だと言ってごねた。そこで綱吉が、自分のベッドを貸すと言ったが、それは骸が譲らなかった。理由はよく分からない、いや分かりたくない。
 最後に視線を向けられた骸は、一瞬嫌そうな顔をしたが、それでも意外なほどすんなりと、瞬時に浮かべた笑顔で、客人だから、とベッドを譲った。意外と、優しいのかと思えば、単に綱吉とベッドを共にしたかっただけらしい。うかれていたのを、また殴られていた。それでも結局綱吉のベッドに潜り込んでいるのだから、なかなかに強かな奴だ。
 今は隣室にいる三人の掛け合いを思い返して、思わず吹き出してしまった。
 面白い三人だ。見ているだけでも飽きない。吸血鬼だなんて負の生き物にはとても思えない。
 その事実を思い出して、上向いた気分はまた下降した。
 考えねばならないことは多々あるのだ。
 父の命令は、どうすれば良いのだろう。
 何のために使うのかは分からないが、普段の様子を見る限りは、おそらく自分のために使うのだろう。超人的な力を得たいがために、だ。
 しかしそうとも限らないかもしれない。もしかすると、何か他の、もっと切実な理由があるからかもしれない。もしそうなら、俺は父の命令を断れはしないだろう。
 どんなに蔑んでいても、あそこだけが、自分の居場所なのだ。他に帰る場所など無い。路頭に迷って野垂れ死ぬぐらいなら、あのじめじめとした陰湿な屋敷の中で一生を終える方がマシな気がする。
 なら、やはり帰るためには血が必要なのだ。しかし、当の吸血鬼は、血を与える気は無いとはっきり言っていた。力ずくで奪い取れるはずがない。こっそり盗めるような代物でもない。はっきり言って、八方塞がりだ。
「何なんだよ、畜生」
 血を持って帰らなければ、それはそれで面倒なことになるのだろう。
 父は自分を疎んでいる。排斥するいい口実を与えるだけだ。
 どうしようもない。
 もう一度寝返りをうち、そろそろと布団から顔を出した。
 月は窓越しに輝いている。
 どうせ寝付けないのだから、と思い切って起きあがった。
 窓の外には淡い光に照らされた深夜の森が佇んでいる。緑は月を反射して黄色く光っていた。鬱蒼とした木々が時折風に揺らめく。
 不意に、暗い森の奥に何かが動いた。
 風の動きではない。動物か何かかと思ったがどうも違うようだった。
 気になって目をこらしてみれば、その正体は簡単に分かった。
 金色に光る目玉がこちらを向いたからだ。
「……ジョット」
 遠くて良く見えないが、どうやらこちらに来いと手を招いている。
 吸血鬼と二人きりという状況に一瞬躊躇したが、今更のことだ。それに今日はもう眠れない気がしていた。
 ベッドの上から床に手を伸ばし、泥を落とした靴を手に持つと、窓をがらりと開け放った。靴を地面に放り投げ、それからその隣に着地する。草が茂っているおかげで、石を踏むことはなかった。裸足を払ってから靴をはく。靴下が無いのが気持ち悪いが、仕方あるまい。
 それからジョットがいる方へと走った。
 さくさくと草を踏みしめる。森の奥とは言えど、ほんの少し小屋から離れているだけだ。
 満月のような瞳は森の中をふらふらと彷徨いている。時折暗闇に隠れてしまうが、すぐにまた二つの光がふらふらとするので、見失うことはない。
 着いた先で、ジョットは楽しげに獄寺を見つめていた。
「今日はいい月だ。美しい。あまりに綺麗だったもので、ついつい出て来てしまった」
 お前もそう思うだろう、と言われてつい上を見た。
 濃紺の夜空に散らばるのは赤から青まで、様々な色の星に、一際大きな金色の月だ。
 残酷なまでに遠い。
 熱帯に属する地域は、この時期夜も暑い。しかし、そんなものさえ超越して、見ている夜はあまりにも冷たく、そこにあるだけで芯からの凍えに身を震わせる。
 ぞくり、とした。
 何だか分からないものが背筋を這い登る悪寒。身震いと同時に総毛立つ。
「お前たちの太陽は、我らにとっては月に代わる。力は満月と同時に充ち、新月に最も劣る。あの輝きは我々に力を与えもするが奪いもする」
「……」
「なかなか楽しいぞ。月下を歩くのは。俺もツナも長らく闇に潜んできたが、人生とはいつまで経っても飽きないものだ。飽きるという奴は目が腐っているのさ。あの月のように、決して逆らえぬ何かに抗い続ける。そして傷付いてそれでも強く生きてゆく。何も美しくある必要は無い。汚くても生きていれば、何かは出来るのだからな
 楽しい。ああ、ひどく楽しいんだ。なあ、お前もそう思うだろう? 小僧」
「……あんたに比べりゃ誰でも赤ん坊だろ」
「そうでもないさ。俺より長生きのやつもいるぞ。まあ、あれはもう人間とか吸血鬼とかじゃない。意志の塊で、ただの思念の集まりだ。形を無くしたものもいる。一方で、ただの物と化した者もいるがな。土と化し、地面に返ってしまった旧友もいたよ。しかし、違うぞ。俺が言いたいことはそうじゃない。……いや、お前は違うか、そうだな、たまに忘れてしまうんだ。そうだった」
 獄寺は眉をひそめた。
 常に大仰な物言いで尊大な言葉を放つジョットとの会話は疲れる。その上、たまにおかしなことを言い出すのだ。通じない会話に首を傾げた。
 ジョットは一人頷き、一人納得した。
 それから楽しげにけらけらと笑う。
 満月は弧を描き、三日月に変わる。
 始祖とやらがどれほどのものか、獄寺は知らない。しかし、神秘的な、あるいは神憑りのような何か、厳かな雰囲気は感じ取れた。
 この男は、人ではない。
 森の闇に戯れ、狂者にも似た言葉を放つ。ただ尊大なだけではないのだ。
「獄寺 隼人、お前に幸あれ。願わくば何百年先までも、な」
「……百年は無理だな、とっくに死んでる。あんた達と違って俺は人間だ」
 くく、と笑みを漏らしたのはジョットだ。爆発しそうな笑いを堪えているらしい。腹を押さえ、肩が震えている。
「そうだった。また忘れる。まったく、これがああなるなんて! 面白すぎて腹がよじれそうだ!」
「……」
 堪えきれなかったのか、大爆笑するジョット。懸命にも、ちらりと見るだけに留める。
「そんなことを言って、綱吉が可愛いんだろう。認めるよ、あれは可愛い。しかも強いからな!」
「……意味わかんねぇ」
 この数時間だけでどれほど疲れればいいのだろう。
 笑い転げるジョットの隣に腰を下ろし、獄寺はため息をついた。



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