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燃焼

   

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暁光は剣となりて【銀環を捨てた少年の話:中②】


 私の中のジョットのイメージはこんな感じです。
 ただ、最近よく出てくるようになった彼はもうちょい、大人でしたね。外れたけどこの路線のまま行こうかなあと考え中です。

 


 人か。
 欧米人だ。
 ――『源泉』を汲みに来たそうですよ。

 ほう。
 久しぶりだね、そんなの。
 ――さて?

 連れてこい。
 いいの?
 ――それではそのように。

「犬だな、あれは」
「犬?」
「ああ。お前の守護に相応しい」
「守護?」
「まだまだ先の話だ」
「またそれ? 俺にはわからないよ」
 にい、と牙を見せ、乱暴そうに笑う彼の眼孔は大きく見開かれ、戸惑う赤い血族を射抜いていた。





暁光は剣となりて





 扉が開いて、骸が出て来た。
 一瞬、デジャヴュを見る。
 遠い昔、初めて会った時も、先にこいつだけが入って伺いをたててきたのだったか。
 その直後に味わった衝撃を反芻しながら、同時に沸き起こる得体の知れない高揚感を必死に抑えた。
 慈善活動を終えた骸と銀髪の男が連れてきたのは、スラム街から外れたところにあるなかなかに豪華な屋敷だった。庭園には季節を無視した薔薇の花が咲き誇る。
 屋敷に入り、玄関を通り抜け、螺旋階段を上り、着いた二階の一番近い部屋。ひとまずは、と骸と銀髪の男が彼らに指示を仰ぎに入ったのだ。
 もうすぐ会えるのだろうか。
「どうぞ、会えるのを楽しみにしていたそうですよ」
 若干不満げに、少年が告げた。
 首を傾げる東洋人の隣で、獄寺の顔が歓喜に輝く。
 一歩進めば、細く開いていた扉を骸が開け放つ。
 恐る恐る、踏み入れたその部屋には――





 訝しげな表情は変わらない。更に、恐れが加わって、ない交ぜの色を浮かべる獄寺に、骸は不機嫌そうに、どうぞと言った。
「許可が出ましたから。……さっさと会って、理解したらさっさとお帰りなさい」
 言って乱暴に扉を開け放つ。
 ランプの明かりに照らされた室内は、みすぼらしい外観とは裏腹に、なかなか快適そうだった。
 ふかふかとした絨毯や、壁にかけられた絵画。上質なテーブルと椅子のセット。木の壁は意外に隙間無く作られていて、風を通さないが、それでいて涼しい空間だ。
 部屋は三つあるらしい。奥へ続くドアが二つある。
 ぼんやりと辺りを眺めるが、それらしいものは見当たらない。
 訳が分からず骸に助けを求めて視線をやれば、彼はむすりとした顔で奥へ続くドアの一つを指差した。
 指されるがままにふらふらと近付き、開け放つ。
 瞬間、目に飛び込んできたのは、金色だった。
 それが、目だということに気付いたのは、一拍遅れてだった。
「っ!」
 声も出せずに驚愕する。
 その様子を、ふらりと離れた顔がにやにやとして見ていた。
「ふぅん。なるほど」
 意地の悪そうな声で、彼は呟いた。
 派手な外見の男だった。煌々としたはねた金髪に同じ色の瞳。白い肌に赤い唇。精悍な、だが幼い顔を併せ持ち、にやにやとする様などまるでいたずらっ子のようだ。彼は、シャツにスカーフを巻き濃紺のチョッキを着た上に黒いオーバーを羽織っていた。ブーツやパンツから見ても、流行の先端を行っている。なかなかに洒落た男だ。
 跳ね上がる心臓を宥め、獄寺は未だににやつく男を小さく睨んだ。
「くく、そう怒るな。お前だって悪いぞ? ノックもせずに入ってくるのだからな。いいか、部屋に入る時はノックだ。礼儀だからな。覚えておけ」
 そう言って、彼は鼻を鳴らした。
 腕をくみ、人を見下ろすようにして尊大に言い放つ。
「さて、お前の名前と生い立ちを聞いてやろう。さあ名乗れ」
「は? ふ、ふざけんな! 何なんだよお前!」
 あまりにも傲岸不遜な態度に、混乱よりも怒りが勝る。そのまま、怒鳴りつけようとしたが、不意に別の声が遮った。
「それはあんまりだよ、ジョット」
 ジョットと呼ばれた偉そうな態度の男は、声につられて振り返った。
 男の体に隠れて見えなかったが、ベッドにもう一人、獄寺と同年代の少年が座っている。
 ジョットに良く似た格好だが、派手さは無く、むしろ素朴で幼い。困ったように眉尻を下げる姿は、非常に愛らしかった。
「ちょっとがさつだと思います」
「ん、そうだったか? しかしだな、目下の者が仁義を通すのだぞ?」
「彼は人間でしょ」
「ああ、そうだった! 忘れていたがお前は人間だったな! ならば仕方ない。私から名乗ってやろう」
 大仰に驚き、まるで人を馬鹿にした態度で、男は獄寺に向き直った。
 爛々と光る炯眼がまだ大人ではない少年を刺し貫く。思わず、言葉を飲み込んだ。
「俺の名はジョット。夜の血族の一柱であり、大海の一だ。『炎帝ボンゴレ』の名は俺の為にあり、俺の血族とともにある。ちなみに夜の血族の中でも相当な古参だと自負しているぞ」
 ジョットは、さあどうだと言わんばかりに両手を広げた。
 唖然とする前で、ベッドから立ち上がった少年が、ジョットの隣に立つ。
「この人が君が探してた『源泉』だよ」
「こいつが、『源泉』? ……訳がわからねぇ、どういうことなんだよ?」
 ついていけずに、呆然と呟く獄寺に向かって、少年は苦笑いして見せた。
「追々、教えてあげるから。ま、ひとまず俺の自己紹介かな。
 はじめまして、沢田綱吉と言います。『炎帝』の直系で、俺も結構年季が入ってる、かな、うん」
 言い終えると、君は、と首を傾げて見せる。
 何を言えばいいのか分からず、言いあぐねていれば、すねに鋭い痛みを感じる。
 骸が勢い良く蹴りつけたらしかった。
「君の名を聞いているんですよ」
「……ハヤト、ゴクデラ」
「日本人?」
「どうやらイタリア人とのハーフらしいですよ」
「なるほど、外見が東洋人らしからぬものだしな。さて、どこから説明してやろうか」
 怪しげに笑う男は、獄寺をじっと見据えた。
「我らはな、吸血鬼なのだよ」





 以前と変わらぬ微笑みがそこにあった。
 きらきらとして、触れがたい何か。
 獄寺の理想が、そこにはいた。
「久しぶり、獄寺君」
 温かな声音で紡がれた自らの名に、思わずごくりと喉を鳴らす。
 よろよろと近付き、膝を折った。
「お元気そうで、何よりです」
「君もね」
 まん丸の琥珀に見据えられ、拍動が激しさを増す。
 豪奢な部屋だった。
 絵画に彫刻に、と下品さを感じるほどに派手だ。何となく、部屋の主が分かる気がする。
 部屋にいるのは二人だけだ。スクアーロは扉の隣で見張り番のように立っている。ソファーにちょこんと座る青年は、手に持つ書類をテーブルに置き、立ち上がると獄寺のそばに膝を下ろした。慌てて頭を下げる彼を、やや乱暴に立ち上がらせ、視線を合わせる。
 獄寺より小さい背丈だ。急に顔が近くにきたので、少しまごついた。だが、改めて懐かしい顔を凝視する。
 綱吉はグレーの品の良いスーツを身に付けていた。かつてとは時代が違う。あの頃の服装を思い返し、少しだけ笑ってしまった。
「時間が経ちすぎて、もう何が何だか」
「確かにね。また会えるとは思ってなかったなぁ。さっき骸から聞いて、びっくりしちゃった」
 しみじみと呟く綱吉に、少しだけ、ちくりとした何かが巣喰った。
 かつて、この吸血鬼に会った時、獄寺はまだ人間だった。そして、二人と別れて、今の姿になるまで年を重ね、それからようやく転化されたのだ。綱吉と『炎帝』は、獄寺を転化してはくれなかった。二人は、獄寺という存在を古い古い記憶に埋めるつもりでいたのだろう。
 だが、それも仕方のないことなのかもしれない。
「ところで、あの方は、いったい……」
 気を取り直し、六道から存在をほのめかされた人物の行方を恐る恐る尋ねてみると、童顔が思案する。ううん、と唸って、彼はソファーを指差した。
「ひとまず座ろうよ。立ち話もなんだし、ね?」
 呼びかけは東洋人へのものだ。
 居場所無く立ち尽くしていた彼は、小さく頷いて部屋へ入ってくる。その黒い瞳は訝しげに綱吉へと向けられていた。
 続いて骸がするりと部屋に入ると、扉を閉め、当然の如くに綱吉の隣に腰を下ろした。背後に立った銀髪の男に頭をはたかれるが、気にもしていないどころか悠然と綱吉の飲んでいたコーヒーに手を伸ばしている。
「少しは残しといてよ」
「善処します」
「厚かましいにも程があるだろうがぁ」
 獄寺の隣に腰を据え、向かい合わせになった綱吉へ、東洋人は笑みを浮かべた。
「……」
 そのまま何も言わない。
 この状況がどういったものだか、今一判別がつかないのだろう。
「えっと……はじめまして?」
「はじめまして。俺は沢田綱吉っていいます」
「俺は山本武。もしかして沢田さんって日本人?」
「昔、日本にいたんだ。この小さい、」
「小さいはやめなさい!」
「……この子もそうだよ。こいつは六道骸。ちなみに後ろのは知ってるよね、スペルビ・スクアーロ」
「山本とは何度か手合わせをしたことがあるが、そっちのガキは初めてだな」
 ぎらりとした眼光が獄寺を貫く。
「俺は、噂だけは聞いてるけどな、『二代目剣聖』」
「その『二代目』ってのは余計だぁ!」
 ぎゃんぎゃんと吼え合う横で、山本が首を傾げた。
「みんな『炎帝』の、吸血鬼なのか?」
「うん、骸以外はね。こいつは」
 言って、綱吉は骸の頭に手を乗せた。
「こいつは人間だよ」
 そのまま髪をぐしゃぐしゃとかき回す。骸は黙々とコーヒーを飲んでいた。視線は黒い液面から動かない。
 人間、と山本が呟く。
 先程の獄寺の様子からして、かなりの年月を生きているはずだ。それこそ、吸血鬼と同じぐらいに。
 難しい顔になった山本を見て、綱吉はからからと笑った。
「こいつの生態はあまり気にしない方がいいよ。こんなもんもあるんだ、ぐらいに思ってたらいいって」
「生態って、動物か何かですか。最近僕への扱いが杜撰な気がします」
「良くわかんねーけど、ま、わかった! 骸は骸だな!」
「ナチュラルに呼び捨てにしないで下さい」
 そう言って、骸は空になったコーヒーカップを置く。綱吉が目尻を尖らせるが、どこ吹く風だ。
 そのオッドアイは、じい、と二人の闖入者を見据えていた。
「何しに来たんですか、君達」
 不躾にいきなり本題を切り出す。
 機嫌は悪い。三白眼になって、獄寺と山本を睨みつけている。
 睨みつけられた山本がたじろいだ。
「いや、俺達にも何が何だか……」
「そうですか? 九代目にはどんな命令をされたのです?」
「『行けば分かる』って」
 なるほど、と呟いて、骸は綱吉を見上げた。
 彼は難しい顔をしている。
「……さっきの話だけど」
 顎に手をやり、綱吉は呟くように言う。
「ジョット、最近体調が悪くてさ。こないだまでは結構元気だったんだけど、何か熱っぽいらしくて、今は寝てるんだ」
「それは」
 思わず獄寺の口から驚愕がついて出た。
 正体を知るからこその驚きだった。
 『始祖』の存在は、吸血鬼達にとって異様な位置にある。それは名前の通り、血の源泉に他ならない。特別な力を持ち、悟りを開いたかのように世界の道理を口にする彼らだ。
 親にも神にも等しい存在が、体調不良とあっては、驚愕するのも無理からぬことだった。
「こういうのは前にもあってさ。俺はあんまり心配はしてないんだけど、九代目は気になったから君達を寄越したんだろうね。帰ったら、俺が心配無いって言ってた、って伝えてくれる?」
「はい……本当に大丈夫なんスよね?」
「うん、ちょっと、空気にあてられてるだけだよ。ジョットは予言者だから、色々と思うことがあるんだよ。悩み疲れたって感じかな」
 頷いた二人の顔を見て、綱吉は小さく笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ」
 今はね、と言われている気がして、獄寺は眉をひそめた。






あとがき
 変なところでおわっていますが仕方ない。携帯で打てるぎりぎりな感じです。
 っていうか、番外編にどれだけ時間かけるつもりなんですかね、私は。
 過去と現在と同時並行に進める訳ですが、いっそばっさり分けた方が良かったかもと思い始めました、一つ覚えですよ、他にもこのやり方で書いてますよ、文章力って何それおいしいの?
 山本は獄寺と同時期に転化されたので、二人の年はほぼ同じです。また年表みたいなのを作りたいな。
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