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燃焼

   

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暁光は剣となりて⑱



 そろそろアルコバレーノの化けの皮をはがしたい。
 書きたい場面はまだまだ先だな。



 







 血脈とは何か。

 彼は決して教えてくれなかった。
 だけどもしかすると、彼自身もわかっていなかったのかもしれない。
 明確に、言葉には出来なかったのかもしれない。





暁光は剣となりて





 目の前で、彼は闇に引きずり込まれていった。
 誰かが、彼の背後から腰に白い腕を回し、空間にぽっかりと開いた光に縁取られた闇へと引っ張っていた。
 奇門遁甲。吸血鬼の中でも古血が使う高難易度の移動術だ。空間と空間を大地に眠る龍脈を利用して繋げる。気の遠くなるような年月を経ていなければ使用はおろか、発動すら出来ない。
 ラルは直感した。
 腕しか見えないこの状況でも悟った。
 こいつだ。
 この腕の持ち主こそが、コロネロを。
 頭に血が昇った。
 冷静な思考など出来ようはずもない。
 視界が眩むほどの怒りに支配されたラルは、ろくな狙いもつけないまま、腕に向かって発砲した。
 銀弾は真っ直ぐに飛び、コロネロが目を見張る前で空間に停止した。
 幼い手が、銀弾をつまみとる。
 つまんだ指から白煙が昇るが、意に介さず、銀弾をラルの方へと放った。
 アスファルトと金属がぶつかって涼やかな音をたてる。
 それで終わりだった。
 この時、初めて気付いた。
 周囲には濃い霧が立ちこめている。既に視界は五メートルほどしかない。この霧は自然発生したものではない。力のある吸血鬼、古血がその力をふるう際に見せる現象の一つ、幻霧だ。
 それが今まで見たことも無いほどの量と濃さで発生している。
 濃密で、隙もなく、蠢いている。霧の向こうから、何かがこちらをじっと窺っているような油断の無さ。間違いなく、ここは吸血鬼の場、だった。
 冷や汗が流れる。
 銀髪の古血が、紫煙をくゆらす。
 その傍で、コロネロは闇へと消えていった。続いて、シガレットの香りだけを残して、銀髪の古血も奇門遁甲の中へと姿を消す。
 じわじわと門が壊れて、完全に術の痕跡が無くなった瞬間に、霧が勢い良く晴れていった。
 空は未だ闇のままだ。
 街灯の心許ない灯りの下、へたりこんでいるラルは、しばらく自分を取り戻すことが出来なかった。





 後ろから抱きついてくる腕の力は緩むことが無い。
 奇門遁甲をくぐり抜けた先、すっかり馴染んでしまった六道の森だ。
 銀髪の吸血鬼は、もう一人、奇門遁甲の中で出会った黒髪の精悍な顔立ちの男に連れられ、二人して屋敷へ入っていってしまった。
 広い草原の真っ只中、二人っきりだ。
 ふと夜空を見上げて見れば、まん丸に光る可愛らしい満月が浮かんでいる。
 ああ、と心の中で嘆息した。
 今日は色んなことがありすぎる。
 コロネロは立ち尽くす。
「……マスター」
 呼びかけても、背後の幼児は身じろぎすらしなかった。
 何度か同じことを繰り返して、それから何の反応も得られないことが分かると、コロネロは顔をしかめた。
 草原に腰を下ろす。幼児もコロネロに抱きついたまま座り込んだようだった。
 涼やかな風が髪を撫でていく。
 くすぐられるようなこそばゆさを感じながら、コロネロは口を開いた。
「ツナ」
 ぴくり、とようやく子供は身じろいだ。
 それでも回された腕はゆるまない。
「何してんだよ、馬鹿」
 腰あたりから聞こえてきたのは、地の底から響くような声だった。思わず頬が引きつる。
 怒っている。
 思い当たる節は多々あった。
 答えに窮すれば、腕の締め付けが強くなる。苦しい。
「俺は待ってろって言ったよね」
「い、言ってたな」
「じゃあ何であんなとこで、あんなことになってんだよ」
「それは……」
 目が泳ぐ。
 何故だったか。
 若い女を見つけ、追いかけ、血を吸おうとしてラルに邪魔をされた。
 それだけのことだったが、何故、あの女を追いかけてしまったのだろう。今にして思えば、訳が分からない。
 泳いだ視線の先に、丸い黄色を見つけた。
 ゆらゆらと妖しく光る黄色。あれだ。
 解答を見つけたコロネロの機先を制して、怒った声が言い放つ。
「言っておくけど、満月に惑わされただなんて他人任せな言い訳は認めないからな」
 心でも読まれたのか。
 がっくりと肩を落としたコロネロは、小さくため息をついた。
 いつの間にかかいていた汗のせいで、少し寒い。
 何回か瞬いて、そして息を整えてから、ツナ、と呼びかける。
 頷く気配がして、幼い腕がするりと外された。締め付けられていたせいで若干痛い。
 座ったまま向き直せば、半眼の綱吉がいる。間違いなく、怒っていた。小さい体から立ち上る怒りのオーラに、くじけそうになるが、何とか立ち直る。
 もう一度、気合いを入れてから、コロネロは頭を下げた。
「心配かけて、悪かった」
「ふうん」
「ふらふらしてる女がいたから、つい」
「つい?」
「美味しそうだな、と」
「で?」
「ラル……『アルコバレーノ』の『ロッソ』に見つかって、撃たれて」
「馬鹿か」
「すみません」
「それから?」
「やばい、と思ったら、体が勝手に動いて、俺は、ラルの血を……」
 言いよどんだ。
 寒気がする。
 そうだ。俺は。
 今になって実感した。
 あの時、極上のワインのように思えたあれは、ワインでもなければジュースでもない。
 本物の、血だ。
 それも親しい知人のものを、許可もなく襲うも同然に奪ってしまった。
 風のせいだけではない寒さに、二の腕が総毛立つ。
「飲んだんだろ」
 綱吉が言い放った。
「ああ」
「そしてそれを後悔してる」
「……ああ」
「だけど、それでも血を求めている」
 その言葉に、びくりと肩が揺れた。
 子供の言う通りだった。
 どんなに後悔しても、それでも一つの思考から離れない。
 もう一度、飲みたい。
 舌触り良くまろやか。乾いた喉に優しく馴染む。飲めば飲むほど力が湧いた。
 俺は、吸血鬼なんだ。
「悪いことではないんだ、コロネロ」
 子供は、真剣な眼差しをこちらに向けていた。
 悪いことではない。コロネロに言い聞かすかのように繰り返す。
「俺達は吸血鬼だ。血を望むのは悪いことじゃない。自然なことなんだ。人がお腹が空いたら食べ物を求めるのと同じぐらい、自然なんだよ」
 全身全霊を傾けて、綱吉の言葉を聞く。
 人間に戻りたいとは思わない。だったら、今、綱吉が言う言葉をしっかり聞かなければならないような気がしたのだ。
「でも、だからと言って、食い散らかしていい訳じゃないんだ。昔と違って、俺達が敬われる時代じゃないんだ。こそこそしろ、とは言ってないよ? だけどね、血を吸うことを俺達は考え直さなきゃならない時期に来てるんだ」
「どういう意味だ……?」
「飲むな、とは言わない。味気ないパックの血は俺だって嫌いだよ。飲んでいい時と駄目な時がある。自制しなきゃ、化け物と同じだ。分かる?」
 『アルコバレーノ』であった時に、灰にした数々の若い吸血鬼を思い返した。
 人に害を為し、享楽にふけり、騒ぐ姿に、コロネロが、引き金を引くのを躊躇ったことは一度も無い。
 肯定の意を示せば、綱吉も頷き返した。
「人間なんかより俺の方が、よっぽど多くの経験をしてるし、よっぽど多くの知識もある。でも、だから人間を下に見てはいけないんだ。俺達が捕食者で彼らが餌の時代は、とっくの昔に終わったんだよ。
 人の方が吸血鬼より強い時もある。骸なんか、いい例だ。あいつは吸血鬼じゃない。自らの術で、あれだけの力を振るえる。そこらの吸血鬼よりずっと強い」
 綱吉は一度唇をなめた。
 コロネロを強く、見つめる。
 二人とも、ひどく、緊張していた。
「でも骸を例にあげなくたって、分かるんだ。なあ、コロネロ。もっと根源的な問題なんだよ」
 どくどくと、鼓動が波打つ。
 全身が熱い。
 今なら分かる。綱吉の鼓動が、分かる。
 同調する血脈にまるで浮かされたかのようだった。
 何かの意志が、綱吉を後押ししていた。
「人と吸血鬼は、一体何が違う?」
 暴論すぎる理想だ。
 思い込みのような願いだ。
 けれども、理解は出来ない真理だった。
 共存を望んでいるのだ。
 いや、そんな難しい言葉もいらない。
 古血のはずなのに、綱吉の感情は良く揺れ動く。情熱も意欲も持ち合わせている。達観はしていない。いつだって、人と同じ目線にいる。時折恐ろしいほどの老獪さを見せ、まるで化け物のように思えるが、それでも彼は綱吉だ。
 ぞくりとする。
 出来るかもしれない。
 彼なら、出来るかもしれない。
 彼は、成長する吸血鬼だ。
 ふわふわとしたその意志を、血が支え、強めていく。
 願望を、乱暴に確信へと昇華させた。
「だから、俺達は、吸血に対して誠意を払わなきゃならないんだ」
 人と吸血鬼とが交わる一端。
 それが吸血なのだと綱吉はコロネロを諭した。
 ラルにしてしまったことはもうどうにもならない。
 それを糧に成長する? いや違う。
 分かり合わねばならないんだ。
「いいかい。コロネロ」
 綱吉の瞳は輝いていた。
 忘れてはいけないよ。
 そう子供は言葉を紡いだ。
 やわらかに、コロネロの脳に言葉が染み込んでいく。
 体が覚えたそれを、忘れることはない。
 コロネロはそう思った。

 叶わないからこそ理想、だなんてことは、すっかり頭から吹き飛んでいた。





 この男は、内心歓喜で叫びたいのだろう。
 バイパーしか見えないように背後に回された握り拳は、細かくぶるぶると震えていた。
 怒りなどではない。きっと、喜びのあまりに自制が外れかけているに違いない。でなければ、他人に内情を明かすような男ではない。
 何を興奮しているんだ。
 対照的に冷静なバイパーの視線の先には、白々しくも心配そうな顔をして、ラルを気遣うリボーンがいる。
 『アルコバレーノ』の本部、救急フロアに本部詰めのメンバーが集合していた。普通、見舞いに行くだなんて滅多に無いが、今回ばかりは話が違った。
 スカルに背負われた女は、青ざめている。コロネロに吸血され、貧血気味らしい。ひとまずベッドに寝かせてから、スカルは輸血の支度に取り掛かっていた。
 『炎帝ボンゴレ』が何らかの形で関わっているのではないか、という疑問に至った後、スカルはラルの元に向かった。彼女が何か騒ぎを起こすのではないか、と思ったからだ。案の定、騒動があった。
 今は『アランチョ』が事態の収拾に動いている。
 発砲。濃霧。爆発。一人の気絶者。
 それほど大きな騒ぎにならなかったのは不幸中の幸いだった。
 ラルは口元を引き結び、思い詰めているような表情をしていた。ベッドに横たわる彼女の首には、包帯が巻かれている。輸血の用意を済ませたスカルは、黙々とラルの腕を消毒し、針を手早く刺す。
 そのスカルも、あちらで、ラルとは別に吸血鬼に遭遇したらしい。それもかなりの古血だったらしく、幻霧に惑わされたという話だ。
 話を聞いたリボーンの、分かるものには分かる浮かれ具合が半端じゃなかった。
 いつもの冷静な男ではない。
 今だって、とバイパーはラルに話しかける男を遠目に見る。
 どこか、意識は別の方向へ向いているように思える。
 古血が関われば関わるほどに、彼は嬉しそうにする。もしかして、彼は自分でも気付いていないのかもしれない。
 状況に憶測を交えながら、バイパーは嘆息した。
 何にせよ、一度ボスに話をしに行かなきゃならないな。
 『強欲のアルコバレーノ』は、救急フロアからそっと姿を消した。







後書き
 ようやく一区切りまで来れた。
 最初の頃は20話ぐらいだろうとか思ってたけど、とんでもない。この調子じゃ余裕で超える。話を大きくし過ぎる。
 一つ前とか今回とか書いてて思ったけど、コロラルくさいな。いや、ツナ総受けのつもりなんです。何というか、ついコロネロをへたれにしてしまう。でもきっともうすぐカッコ良くなってくれるはず。
 一応頭の中では、もうすぐのはずの山場のプロットは出来てる。ただ、そこに着くまでにまだまだ時間がかかりそうだ。
 という訳で、まだまだコロネロはヘタレ君です。


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