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燃焼

   

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暁光は剣となりて⑯



 今回は上り坂。

 






※今回、吸血描写≒カニバリズム的描写があるので注意!






 白い頭に白い肌。
 白ずくめの服を着て、にんまりと笑うその青年は、紫の目をすこおし、細めた。

「どう?」

 薄い唇から楽しそうな声が聞こえる。
 辺りを見回せば、茫然自失の体の青年が一人。ずり落ちた眼鏡を直そうともせず、白い男を見ていた。そしてもう一人、幼い少女が何かを胸に抱いて、ぎゅっと縮こまっている。
 それだけだ。
 ナポリの街から少し離れた草原。
 曇った夜空、湿った草の香り、虫の音さえ聞こえない程の静かな夜。

「ねえ」

 反応が無いと知った白い男は、口を尖らせた。
 男は、こちらをのぞき込んでくる。


 視線が、合った。





暁光は剣となりて





 結局、二度目の買い物には、コロネロと綱吉との二人で行った。
 千種達には申し訳無いが、鳥頭と南国果実の面倒を見てもらうことになってしまった。一通りの買い物を済ませた後で、スーパーの喧騒を背にした綱吉は、残してきた五人のことを考える。何事も無ければ、家の片付けはもう終わっている頃合いだろう。
 やれば出来るのになぁ、と思いながら、抱えた荷物を落とさないように持ち直した。
「持つか?」
 心配そうに言う隣のコロネロに首を振る。
「吸血鬼って力あるから大丈夫だよ」
 見た目こそただの幼児だが、打たれ強いし力もある。この怪力をフルに活用しているのがコロネロだった。二人分の荷物を持っている。
 本人も大幅な腕力の向上には戸惑っているみたいだったが、一旦使えると分かってからは、いかに戦闘に利用できるかを検討しているらしい。綱吉の視線に気付いた彼は、小さく笑った。
「今日の晩飯は何にする?」
 見上げた綱吉は、ほんの少し目を丸くした。
 気のせいか、コロネロの表情は若干疲弊しているように見えたのだ。
 目元にうっすらと隈が出来、笑顔にも力が無い。瞳は陰りを帯びていた。
 弱っている、と分かった瞬間に、自分の馬鹿さ加減に綱吉は泣きたくなった。
 転化したてのアンダーイヤーを放ったらかしにしてしまった。頭が他のことでいっぱいになってしまっていた。
 古血とは違うのだ。
 飲まねば、弱る。
 こんな所でダメツナを発揮してしまうだなんて、と嘆きながら心の中でため息をついた。
「肉じゃが……じゃがいも無しの」
「それは肉じゃがじゃねえだろ。好き嫌いしてんじゃねえぞ、コラ」
「じゃあ、メロンパンがいい」
「飯じゃねえよ! 日々の健康に気を使わねえやつは三流以下だぜコラ!」
 威勢良く叫ぶ青年に、綱吉は笑う。
 ついで、だ。
 ふと、そんな考えがよぎった。
 せっかく、外に来ているのだ。後で戻ってからまた外に出るのも面倒くさい。
 だったら、今の内に、『食事』を済ませてもいいんじゃないか……?
 ちょうど、ここにいるのは俺とコロネロの二人だけだ。
 今なら、できる。
 しばらく綱吉は歩を進めた。





 ラル・ミルチの表情は暗かった。
 先程、ホテルでチェックアウトの準備をしている時に、仲間から連絡が来たのだ。
 『アルコバレーノ』の一色、リボーンは、開口一番、言い放った。
『撤退だ、ラル・ミルチ』
 受話器の向こうから聞こえてきた無情な一言に、愕然としたのはほんの一瞬だった。すぐさま反論したが、リボーンの整然とした説明の前に彼女の勢いは弱まっていった。
 二人の強大な古血に、バイパーとためをはる程の幻術師。
 彼女一人で相手に出来るようなものではなく、また、『アルコバレーノ』自体が負うリスクも大きいとなれば、撤退するのも当然のことだった。
 それでも、諦めきれないからこそ、彼女は今ここにいる。
 陽が沈み、闇が訪れる時間。真っ赤に染まった夕空は絵の具をぶちまけたような黒に染まってしまった。その下で、黒いパンツスーツに身を包んで、件の山へと向かっている。
 手は出さない。出しても意味は無いことはわかっている。
 だが、と武器の入ったスーツケースを持つ手を強めた。足元から立ち上るゆるやかな熱気に眉をひそめながらも、彼女は進む。
 だが、一目だけでも、見たい。
 熱的に光る目を更に光らせる。
 本当に、裏切ったのか?
 何故、裏切ったのか?
 あんな笑顔を何故、出来る?
 ラル・ミルチは、それを知らない限り、進めない。
 ほの暗い過去をしばしの間、噛み締め、ようやく前を向いた時、それは光った。
 住宅街の外れへと消えてゆく金色。
 街灯に反射した見覚えのある金髪。
 一瞬見えた背は、良く知っているものではなかったか?

「コロネロ……?」

 かすれた声で名前を呼ぶ。
 小さすぎるそれが、豆粒のような人影に届く訳もない。
 足を止めていられなかった。
 何も考えず、ただ走った。
 確かめなければならない。





 不意に幼児は足を止めた。
 何事かと見下ろせば、彼は真剣な眼差しでコロネロを見上げてくる。
 嫌な予感、がした。
 案の定、小さな唇は冷たく動いていた。

「喉、渇いてない?」

 琥珀は少し苦渋が滲んでいる。もしかすると、自分の吸血に対する意識を感じ取られているのかもしれない。
 呆然と見下ろすコロネロの視界を、ちろちろと赤がざわめく。
 夕焼けが、やけに赤い。
 本能的に頷いた。
 確かに、舌の付け根から喉の奧までが、ぴりぴりと痛んでいる。渇いているのは間違いなかった。
 ただ、それに対して許容出来るかと言えば、わからない、という他無かった。
 コロネロのシャツの裾を、小さくて丸い手が掴む。
 柔らかくしわが出来るのを見ながら、耳はその言葉をしっかりと捕らえていた。

「コロネロ、『血』をもらいにいこう」

 その言葉が、あまりにも甘く、かぐわしく聞こえたのは、気のせいだと信じたかった。





 「『炎帝ボンゴレ』。
 始祖たるその男は強大な炎を操り、未来を予知し、力を掲げて平和を謳ったという。誰しもが知る、古き始祖の一柱。多くの伝説に覆われた姿は、神秘に彩られている」


「つまり、良く分からねえって事だろ」
 リボーンが指摘すれば、スカルはヘルメットの中で顔をしかめ、手に持つ資料をテーブルの上に投げ出してかみつく。
「どこの始祖もそんなもんでしょうが!」
「もうちょっとマシな情報はねえのかよ」
「今のイタリアで生まれたとか先代ボンゴレ当主が『炎帝』の子だとか、ありふれたものしかありませんよ。千年は姿を見せてないらしい上に、生死すら定かじゃないんですからね!」
 ぎゃんぎゃんとわめくスカルを尻目に、リボーンは投げ出された資料の一枚を手に取る。A4サイズのそれには、名だたる吸血鬼達の名前がずらりと並んでいた。
 この全てが、『炎帝ボンゴレ』の血族だ。
 数ある血族の中でも、人に一番近いと言われる由縁でもある。人と吸血鬼が共存する世界を作ろうと、尽力したのはこの血族が一番だ。
 それが、今では。
 暴君が居座るかつての大血族。当主ザンザスは、暴力を用いて当主にのし上がった。反対する者は古血でさえ、容赦なく殺してしまう。彼が何を望んでいるのかは分からない。だが、何かを探しているらしい。その一環に、『炎帝ボンゴレ』の名が上がった。それを探すためにやってきた。
 三人の吸血鬼達の話は、そういうことらしかった。
 漠然としていて分からないが、血族に関する問題でも生じたのだろうか。
 話の向こうから、何となくザンザスの焦りを感じる。
 不意にリボーンの脳裏に閃くものがあった。
「……コロネロの問題と同時期だぞ。おいパシリ、もしかすると、これは……」
 ぶすくれていたスカルがはっとする。
 偶然かもしれない。
 しかしあまりにも偶然が続きすぎる。
 資料のそこかしこに目立つ文字列。
 『炎帝ボンゴレ』。
 背筋がぞわりと総毛立つのを感じながら、リボーンは呟いた。

「『炎帝』の血族が、コロネロを……?」
 背景がわかったところで、手を出せる訳ではなかったが。





 幼い子供に手を引かれ、路地裏に連れ込まれる。
 人を襲う。
 襲うが、殺す訳ではない。
 催眠状態に陥らせてから、ある程度吸って、そして前後の記憶を奪うのだ。
 勝手に吸われた人間には申し訳ないが、そこは割り切ればいい。
 特に若い吸血鬼は、古血よりもなるべく多く血液を得なければならない。
 そう告げた幼児は、酔っ払いの人でも探してくると言って、コロネロを路地裏に残してどこかに行った。
 しばらく待っている内に、赤い空は紫へ、そして完全なる夜へと変わっていった。
 あまり時間は経っていないはずなのに、すぐに空は様変わりするものだ。
 ぼんやりと空を眺めていると、不意に路地裏の入り口を何かの影が通った。
 目をやれば、若い女が歩いていくところだった。
 コロネロの双眸が、じっとその女を見る。
 意志とは無関係に、目が動いた。
 その時、コロネロに意志は無かった。
 吸血鬼、とは、血を吸う鬼だ。
 理性無く、本能のままに人を食い漁る鬼。
 青い双眸は爛々と輝いていたが、彼はそれを知らない。
 立ち止まっていた足が、女の方へ動き始めたが、それも知らない。
 ゆっくりと、気配を消して、女へ近付く。
 夜の闇が、彼の姿を覆い隠していた。
 例え闇でも、視界に困ることはない。良く見えている。
 路地裏から姿を表し、歩み去る女の背後に近付く。
 良く晴れていたせいか、彼女は薄着だった。
 髪を結い上げており、ひどく扇情的なうなじが外気に晒されている。
 白い肌は闇にぼんやりと浮かび上がり、街灯の白光に当たれば、弾力のありそうな肉質を光らせる。
 ゆらゆらと暗闇に揺れる白い肌は、コロネロの一メートル手前にあった。
 肌はやや青い血管が透けている。
 力強い鼓動と、血流の循環。
 もし――

 この牙を突き立てたら、どうなるだろう?

 そう考えるだけで、どくりと己の血脈が波打った。
 鋭い牙の切っ先は、肌を突き刺し、柔らかであろう肉を掻き分けて白いそれを肉に埋ずめる。温かな体温を唇に感じながら、滲み出る血液の香りが鼻孔を満たす。牙を埋めたまま吸い上げる。鉄臭い血液が波打ちながら口内に流れ込み、今まで味わったことの無いような、豊潤で美しく、酩酊してしまうそれを鋭敏な知覚で、全身で感じる。舌は滑らかに喉に送り、燕下した瞬間に臓腑全てに熱を与える。
 そうなることを、吸血鬼は本能で知っている。
 コロネロの指が女の首筋へ向かう。
 一瞬で、気絶させてやる。
 驚く間も無く彼女は意識を失い、そして何も知らぬままに、体を巡る血流を少し失う。
 飲み過ぎては駄目だ。死んでしまう。
 その後は、意識を戻してやり、記憶を奪う。
 もしかすると貧血気味になるかもしれない。一応、五分程度は様子を見てやろう。
 コロネロの指が女の首筋に触れる。
 びくりと反応した彼女は、勢いよくこちらを振り向き、そして妖しく光る双眸を真っ向から見た。その瞬間、コロネロは彼女の中に入り込む。視線を介して行う催眠術だ。
 すぐに意識を失った女を、優しく抱きとめる。
 すぐ傍の路地裏に連れ込み、傷が目立たないような首筋をはだけさせた。
 指で触れると、温かい。
 何も考えず、口をそこへ下ろしてゆく。
 ようやくありつける血液だ。
 ゆっくりと口を開け、牙を伸ばし、鋭利な一点を肌に押し付け、今にもそれは肌を破ろうとする。



 聞き慣れた、金属音。



 血に浮かされていたコロネロに、それを避けるのは難しかった。
 左肩に灼熱を押し付けたような痛み。
 路地の入り口には、見慣れたシルエット。
 街灯が、瞬いた。

 闇をものともしない視界は、知りたくもない顔をコロネロに知らせてくれた。

「コロネロ……」

 唖然として、どうしようもなく彼女の口から漏れ出た自らの名前に、思考はぶっ飛ぶ。
 矢のように鬼は駆けた。
 銀弾を受けた体を、どうにかせねばならない。
 脳は、死への警鐘、ただそれだけで満たされていた。
 風を切り、本能がままに――


 ――彼は、鉄を味わった。


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