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燃焼

   

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暁光は剣となりて⑭



 新たなる登場人物が!
 話はどこまで広がるのか?
 そして収拾はつくのか!?


 







 恐怖に泣き叫ぶ子供達の中に一人、薄笑いを浮かべて立ち尽くす子がいた。
 多種多様の感情で満たされ尽くして、その末にどうしようもなく漏れ出た笑みだ。
 鉄の匂いが立ち込め、飛び散った血飛沫が凄惨極まるその部屋で、たった一人、全てを諦めたかのように立ち尽くし、眼前の化け物をただ見ていた。
 助けなど、期待していない。
 大人達は逃げるか殺されるかしてしまった。
 三人の大人と十人の子供らが暮らす小さな孤児院に残っているのは、非力な子供らだけだった。そしてその子供らも、幾人かは既に動かない。
 助けは無い。もう、無理だ。助けは無い。無いんだ。あきらめなくてはならない。この世をあきらめなければならないんだ。
 あきらめろ。あきらめろ。あきらめろ。
 振りかぶられた血塗れの爪。
 あきらめろ。
 残忍な笑み。
 ああ。

 あきらめたくない。





暁光は剣となりて





 スカルは思わず息を飲んだ。
 目の前の光景に唖然とする。
 数週間前までは確かに立派な屋敷が建ち、それなりに人が住んでいたはずだった。吸血鬼が巣くう洋館は、周りのスラムの中で、異彩を放っていた。資料によれば、この弱小血族の長は、頭に立つにはその力量が見合わなかったはずだ。
 その結果がこれなのだろうか。
 ヘルメットを外して、光景を見回した。
 見事な洋館は今は無い。
 その骨格は崩れて山になっていた。炎上し、焼き尽くされた後に残っているのは、館を囲っていた高い塀と黒く焼け焦げた木材がわずかにあるだけだ。跡形もない。残酷なまでに、徹底的に潰されている。
 これをしたのは、誰か。
 バイクを止め、門の中へと足を踏み入れた。焼け跡の周りをゆっくりと歩きながら考える。
 洋館がこうなった日にここにいたのは、住人である吸血鬼達、そして丁度任務で赴いたコロネロだ。そして、同じ日にコロネロは消息を絶った。
 おそらく任務を失敗した。失敗する事、前提なのだから仕方ない。問題はその後だ。
 そこから逃げなければならないが、別に暴れる必要は無いし、それを出来るだけの火器を持っていなかったはずだ。だったら誰がこうまで館を破壊した? まさか、ここに住む吸血鬼達が自分でやった訳ではないだろう。
 ならば。
「第三者がいたか」
 束の吸血鬼達をものともせず、館を破壊しつくせるだけの第三者だ。大人数だったとは思えない。この辺りの道は狭いし、事前に行ったスラムでの調査でも、大量の人員を見たという証言は得られなかった。
 恐らく少数。そして吸血鬼だ。
 コロネロの件と合わせて考えれば、きっとこの吸血鬼こそが、彼の親となった可能性が高い。もし館の住人がコロネロを吸血鬼にしたのだとしたら、館を破壊する理由は無い。だったら、第三者を考える方が合理的だ。
 不意に、足を止める。
 焼け跡から、複数の視線を感じる。
 館は焼け落ちたと言えど、多少残っている炭化した木材は、十数人が隠れられるスペースは十分にあった。何者かがひっそりとスカルを監視している。ヘルメットを被って、炭の塊へと足を向ければ、どよめく気配がわずかにする。
 銀の弾丸の入った拳銃を取り出し、気配のする方へと向けた時だった。
「ま、待ってくれ!」
 慌てた声とともに、這々の体で一人の男が焼け跡の影から飛び出してきた。
 煤けて黒い顔。服も真っ黒になってしまって、かなりみすぼらしい。しかし怯えた表情はしっかりと確認できる。
 銃口はそらさず、スカルは低く吐き捨てる。
「まだいるだろう。何をするつもりだ」
 数人、まだ潜んでいる気配がする。ちらりと焼け跡に視線をやれば、男は違うんだ、と叫んだ。
「襲うつもりは無い! だ、大丈夫みたいだ、出て来ていい」
 弁明した後、スカルから視線を外して隠れた数人に呼びかけた。
 怖ず怖ずと出て来たのは、年若い女が二人と子供が五、六人だった。どれも煤まみれで、真っ黒だ。
 軽くヘルメットの中で目を見開く。ここの生き残りだろうか。
 拳銃を握り直して、男に問うた。
「お前達は吸血鬼だな?」
「そうだ。だが、子供は違う。人間だ」
「なぜ人間がいる」
「ここのスラムの家族は、親が働きに行ってるからその間、子供達は俺が預かってるんだ」
 ちらりと子供の方へ視線を向ければ、小さく数人が頷いた。どうやら本当らしい。
 人間に対して理解がある吸血鬼のようだ。しかも常識のある。そう判断したスカルは、拳銃をしまった。それを見て、男がほっと息をつく。
「あんた達はここの血族の?」
「いや、巻き込まれた。『炎帝』ボンゴレだが、血族の命令で一カ月ほど前からここに来ていた」
「なぜまだここにいる?」
「血族の長が代替わりしただろ、あれで俺達は切り捨てられたらしい。少しばかり反抗しただけだってのに、ひどいもんだぜ」
「名前と年は?」
「俺は持田だ。それから黒川と笹川だ。俺は江戸、二人は明治生まれだ」
「……」
「一応古血だが、アルコバレーノを相手取るつもりは無い。戦闘に特化している訳じゃないから、アルコバレーノには勝てない」
 思わず黙り込んでしまったスカルに、持田はそう言った。知らないとは言え、スカルにしては珍しくどじを踏んでしまった。
 小さくため息をついて、眉をひそめる。
「ここで何があったか見たか? 些細な事でも何でもいいんだが」
「……話してもいいけど、条件があるわ」
 波打つ黒髪をかきあげた黒川が言う。隣にいる小柄な笹川も頷いた。持田もしっかりと頷いて真剣な顔でこちらを見ている。
 スカルは心の中で舌打ちした。古血の出す条件だ。例えこちらがアルコバレーノとは言え、それなりに狡猾な条件が出されるだろう。面倒な事になってしまった。
「何だ?」
 問いかければ三人は子供らの上で視線を交わし、頷いた後、持田がぎらついた目をして口を開いた――。

「風呂と食料を要求する!」

「……」
 スカルは、瞬いた。





 思いっきり伸びをして天を見上げた。
 懐かしい空気、懐かしい空間、懐かしい国だ。
「日本に来るのは久しぶりなのなー」
「どしゃ降りで風もひでえけどな」
「清算の雨に怒涛の嵐じゃん。歓迎されてんのかなぁ」
「むしろ帰れって言われてる気がするぜ」
「正直、俺は帰りたいけど」
「同感だ」
 空港から出てすぐ、屋根のある場所でタクシーを待つ二人は、空と同じどんよりとした空気を漂わせている。荷物を詰め込んだスーツケースを連れて、これから待ち受ける何かを暗示するような空を見上げた。地面を叩く雨音が耳に煩い。
 山本と獄寺は揃って溜め息をついた。
 先代からの謹慎命令をぶち破り、偽造パスポートだのビザだのを使いまくってイタリアを出国、空を飛び日本へ入国。知り合いからの面倒な要請に答えてみれば、着いた母国は暗雲立ち込め土砂降りな有り様。吸血鬼でなくとも、ため息をつきたくなる。
 ひとまずやって来たタクシーに乗り込んで行き先を告げる。
 この空港からはかなり遠い。ひとまず、日中はタクシーか電車で近くまで移動し、夜に目的地まで走るつもりだった。
 屋根の無い場所でのタクシーの乗り込みのおかげで服が濡れたが、仕方ない。
「それにしても変わるもんだなぁ」
 山本の呟きに、確かに、と答えが返ってくる。
 二人がこの国にいたのは二百年は前になる。その後は血族の本拠地、イタリアへと移り、そこでずっと暮らしている。獄寺は生まれも転化の場もイタリアだからそれほど感慨は覚えないらしいが、生まれも育ちも転化も日本だった山本にとっては感慨ひとしおだ。
 しかし本当に変わった。窓の外を走り去る光景に、見覚えは全く無い。自分がいた町はもうあの頃の原型すら留めていないだろう。時代の変遷はイタリアで感じたが、改めて母国を見ると何とも言えない気分になる。
「おい、何であいつら、俺達を呼んだと思う?」
 感傷的な気分に水をさされた。
 若干不満だが、気になってはいた事なので獄寺の問い掛けに首をひねる。
「霧の家ってのが良く分かんねえよなぁ」
「ましてや、俺達は仲がいい訳じゃねえ。霧と雲なんて最たるもんだろ。なのに、わざわざ呼んだ。しかも霧の家に」
「……で? 良く分からねえけど」
「ちっ。だからだな、不仲をおしてまで、俺達をわざわざ呼び寄せたって事はだ。もしかしたら、あの方が何か関わっておられるんじゃねぇか?」
 あの方、と言った時に、獄寺の目がひっそりと輝いた。
 ああ、と山本は答える。
「だったらいいなぁ」
「先代が当代にやられてから、そろそろ一年だ。あの方が動き出したんじゃねえか?」
 期待を込めて呟くように言う獄寺に山本は瞬いた。
「俺は違うと思うけど」
「それ以外に何かあんのかよ?」
「いや、ツナが関わってるかも、ってのには賛成だけどさ、当主の為にってのは違うんじゃね?」
 暗い眼差しで豪勢な本邸を眺めていた姿を覚えている。何を考えていたかは分からないが、とても好意的な印象は受けなかった。
「十代目にって話にも乗り気じゃなかったしさ」
「当代が相手でもか?」
 思わず黙り込んでしまう。
 当代と友人の間には、因縁がある、と言えばあった。ほころびにしては大きく、見捨ててはおけない因縁だ。
 しかしそれを理由にして綱吉が当代に刃向かう事は無いだろう。ほころびはあくまでもほころびだ。
「考えても仕方ねえんじゃね? 今の内はさ」
「確かにそうだけどよ、気になんだよ」
 舌打ちして獄寺は目をつむった。
 寝るらしい。目的地までは遠いからだろう。山本はもう少し、祖国の景色を楽しむつもりだった。例え、どしゃ降りだろうが風が酷かろうが、もう彼の属するものがこの地では無くなろうが、祖国は祖国だった。
 着いたら起こしてやろう。
 それで、二人でがっかりすればいい。
 会いたい人に会えないのは、どうせいつもの事なのだから。





 ぶちん。
 骸は己の血管が切れる音を聞いたと思った。
 浮かべる冷笑すら今は無い。怒りで全身を染め上げ、出現させた三叉槍で空気を切り裂く。黒く歪んだ空気をまとった彼は、躊躇など一片も無く、目標へ槍を振り下ろした。
「っ」
 小さく息を呑む音と、金属が激しくぶつかり合う音が響く。
 しばしの沈黙の間に、びりびりと槍が衝撃で震えている。
 一拍の後、激烈な怒気が下方から爆発した。
 槍をトンファーで押し返され、後方へと飛ぶ。追った第一撃が高速で骸の腹を狙ったが、ミリ単位でそれを避けた。避けつつ、槍を一文字に振り払う、が、手応えは無い。
 座っていた雲雀は、ゆらりと立ち上がり、両手にトンファーを構えて骸を殺すかのように睨み付けた。
 また一拍おいて再開された乱闘は、部屋を破壊していた。
 刺々しく荒れた空気が民家の一室を染め上げてゆく。震えた大気は、ぴしりぴしりと、土塗りの壁にひび入れた。畳で無遠慮に暴れたせいで、数ヶ所で畳が切れているどころか、床下までが見えている。それでも乱闘は止まらない。
 だん、と槍を畳に打ち付け、骸が目を閉じる。
 幻術だと悟って、雲雀は発動する前に、とトンファーを振りかぶった。だが、一秒遅い。
「凍てつけ」
 言葉一つで、彼の足元から透明な氷が立ち上る。雲雀の足を包んで上へ上へと激しく成長を続ける氷を見て、雲雀はにやりと笑った。
 振りかぶったトンファーを、自らを覆い尽くさんとする氷に振り下ろす。一度、打っただけで粉となってそれは崩れてしまった。
 小さく目を見開く骸に、雲雀は不敵に笑った。
「こんなの、綱吉の氷に比べたらおもちゃでしょ」
「彼のと比べないで下さい、と言うか君、どんな凍らされるようなことしたんですか」
 呆れた声音で言う骸に、何ともなしに答える。
「大した事はしてなかったさ、いつも通り」
「いつも通り、喧嘩しただけだもんな」
 二人は瞬いた。そして同時に一方向を向く。
 突然割り込んできた声の主だ。
 崩れた扉の向こうに、にっこりと笑う幼児がいる。笑顔がどこか空恐ろしいのは、気のせいではあるまい。
 二人の顔からざあっと血の気が引いた。
 綱吉が小さな手をかざした。愛らしい笑顔が般若に変わって、

「一晩頭冷やしとけ!」

 いつも通り、悲鳴が民家を包んだ。




後書き
 携帯で投稿したときはぎりぎりの文字数だったorz
 五千字って意外と少ないよね。
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