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燃焼

   

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暁光は剣となりて⑬


 やばいね。ぎりぎり二十話か。
 もうちょっと短く終わるはずだったのに、何故だろう。


 





 仲は、良くない。
 まあ、悪くもない。普通だ。
 ただ仕事中はよくつるんでいる。周囲からは仲がいいと認識されているせいだ。本当のところ、相手は誰でもいい。
 相手が誰であろうと、自分の力量ならば大抵の事は出来る。
 年だけは無駄に重ねて来た。

「で、これが言ってたやつ。どーよ」
「おおー! すごいすごい、かっこいい!」

 きらきらと目を輝かせて銀色に光る日本刀を見る青年。
 年上の青年は、その年に似合わず、意外にがきっぽかった。
 その隣で、仕事仲間が苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見ている。
 あーあ。そんな悔しそうな顔しちゃって、まあ。
 でも仕方ない。俺だって同じ立場ならちぃっとばかし悔しいだろうから。

 楽しげに笑うその青年。
 そのまばゆい笑顔に再び出会えるのが、百年先になるとは、この時の俺も仕事仲間も、全く、気付いていなかった。





暁光は剣となりて





 返事が来ない。
 リボーンは品の良い自室で眉をひそめた。
 折り畳み式の携帯を右手で開閉させながら、ソファに腰掛けている。気難しげな表情で、彼は携帯が鳴るのを待っていた。
 先日、コロネロの件に関して送ったメール。ヨーロッパではボンゴレに次いでの大血族であるキャバッローネの長からの返事を待っている最中である。八百年を超えた吸血鬼である長は、案外考え方が若く、年月の恐ろしさを感じない青年だ。その直系の雲雀に連絡をとってもらっているのだが、まったく返事がない。
 リボーンはスーツの足を組み替えた。目深に被ったボルサリーノを更に下げる。背もたれに身を投げ出し、天を仰ぐ。
「……」
 携帯の開閉の音が気怠げなリズムで部屋に響いた。
 引っかかる。何かが。
 雲雀は気分屋だ。すぐに返事が来ない事も今までにたびたびあった。しかし、このタイミングで、というのがどうも気にかかる。それに事が事だ。こういう気まぐれはしないはず。
 大して理由は無いのかもしれない。あるかもしれない。どっちか判別つかないのが気にくわない。
 暗い帽子の中で目をつむる。
 アルコバレーノに喧嘩を売る理由がキャバッローネには無い。むしろ、あの血族は人間に友好的ですらある。『跳ね馬』の腑抜けは有名だが、やるべき事は逃さない男だ。恐らく今回の騒動に関して関わってはいないだろう。なら、問題は雲雀か。
 舌打ちする。
 あの雲雀は意外に保守的だ。自分が縄張りだと認識した地を頑なに守るほどに。それをおしてまでアルコバレーノに反目する理由は無いはずだ。それとも騒動に関係のある吸血鬼でも見つけたのか、なら何故連絡が無いのか。
 直感が警鐘を鳴らす。
 理由も無いこの不安は一体何だろうか。
 暗闇の中では余計な感情が身体中を駆け巡る。
 デジャヴュを見る。
 冷たい青い闇を思い出す。
 鋭く光る血濡れの牙と、暗い笑み。
 鬱々とした恐怖と手に握った汗。
 気味悪く光る目に、貪欲なうなり声。
 それから。
 それから、月を二つ。
 不意にリボーンは飛び起きた。
 若干焦りの表情で部屋の中心に向けて、取り出した銃を構える。
 銃口の先には、場違いな男がいた。
 高層ビルの中層階だというのに、ライダースーツを着た上に顔を覆い尽くすフェイスヘルメット。それが、ぼうとこちらを見ている。
 唇を噛んでリボーンは銃を懐に仕舞い込む。頬はいささか赤い。醜態を晒した自覚はあった。
「珍しいですね」
 そう言ってスカルが一歩リボーンに近付いた。
「俺がいるのに気付かないとは、驚いた」
「うるせー。考え事だよ、考え事」
 何なのかと目を向ければ、彼はしかめっ面をした。
「雲雀の方はどうなりました?」
「……返事は無ぇぞ」
「そうですか。今、バイパーから連絡があって、ようやく術師の正体が分かったかもしれない、だそうです」
「かもしれないって何だよ」
 思わずぼやいたが、スカルは関せずにリボーンに紐でまとめた書類の束を渡した。
 一枚目をめくったリボーンの表情が変わった。
「……六道」
「ええ、そうです。先輩の悪魔みたいな調査命令の報告書ですよ」
「あぁ?」
「い、いえ、何でもないです。とにかく、行方知れず、かつ、思想からして、今回で最も怪しい男です。それと、バイパーも同じ男をあげました。俺には術師の勘と言うものは良く分かりませんが、バイパーは術の感触からして六道骸が相手のような気がする、と」
「六道と言えば、吸血鬼も人間も嫌っている物騒な奴だろ。だからと言って、アルコバレーノに喧嘩を売るか?」
「最後の紙を」
 言葉少なに返され、むっとしながらもリボーンが目を通し始める。
 しばらくの後、彼の表情が変わった。
 軽く目を見開いて書類を見つめる。
「奴は人間ですが、ある吸血鬼と親しい仲にあるらしい。それもかなりの古血だそうです。あの雲雀も同じ古血と関係があるという情報も入っています」
「……その古血は?」
 書類から目を離さず、言葉だけで問う。
「残念ながら、まだ特定出来ていません。あまり派手に動かないみたいです」
 そううなだれるスカルにリボーンが尋ねかける。
「その古血とやらがコロネロを吸血鬼にしたのか?」
「可能性は高いでしょうね」
 スカルは眉をひそめた。
「雲雀がコロネロの親になった可能性もありますけど」
「いや、無いな。もしそうだとしたら、誰かに助けを求める訳がねえ。あいつはプライドが高ぇからな」
「だとしても、先輩」
 スカルは声を低くした。
「今回の件からは、手を引くべきです」
 鬱々とした声音が全てを物語っていた。
 その通りだった。
 古血が二人出て来た、それもどちらとも五百は超えるであろう古血だ。雲雀はキャバッローネの当主の子であるし、その上、片方は未だに血統の特定すら出来ていない状況だ。あまりにも不利だった。
 一体、なぜこんな事になったのだろうか。
 コロネロを利用して、アルコバレーノに喧嘩を売った名も知らぬ古血。アルコバレーノを子にする意味は分かっているはずだ。対吸血鬼を掲げる組織の中枢を、吸血鬼に引き込んだ。どんな状況であったかはまだ判明していない。しかし、彼を利用しようというのでなければ、一体他にどんな理由があって、アルコバレーノを吸血鬼にするだろうか。まさかコロネロ自身が、吸血鬼にしてくれとすがりついた訳ではあるまい。
 リボーンは思考する。
 アルコバレーノに対抗する吸血鬼の勢力は多い。協力的な方が珍しいぐらいだ。あからさまに吸血鬼を威圧する為の組織であるのだから仕方ないだろう。その上、アルコバレーノに協力的だった大血族の『炎帝』ボンゴレも、当主の代替わりによって急激に様変わりし、アルコバレーノとのパイプを断ち切られてしまった。あのボンゴレが動かないのにあえて動くような血族はいやしない。せいぜいキャバッローネが少し手伝ってくれるぐらいだが、あそこも大血族とは言えどボンゴレよりは小さい血族だ。どう動くかは分からない。ならば、この状況下で、見知らぬ古血を探してくれるような親切な血族など期待するだけ無駄か。
 手を引くべきなのだろうか。
 吸血鬼側にアルコバレーノの情報が漏れる事、アルコバレーノとしての面子、今後吸血鬼どもに与えてしまうであろう優越、考えてみればしょうもないことに思えるが、はったりの世においては重要なこれらの事。しかし、蛇が鎌首をもたげるような不穏な空気が漂う状況に比べれば、それらは大して意味の無い事なのかもしれない。
「名も知れぬ古血、か」
「これさえいなければいいんですが」
「仕方ねえ」
 リボーンは一度ゆっくりと瞬いた。
「手を引くぞ」
 重い言葉のはずのそれは、案外軽く部屋に転がった。





 教官、と呼ぶ声を覚えている。
 最後に交わした会話はたわいない喧嘩言葉の応酬だったような気がする。あまり覚えていない。
 いつも通りの日だと思っていた。その日、彼に与えられている任務は好みのものではないと知っていたから、帰って来た時に、おそらく機嫌が悪くなっているだろうと思った。だから、苛立つガキの尻を蹴飛ばして渇を入れてやらねばならないとも思っていた。まだまだひよっこで、一人前には程遠い。手のかかる教え子だ。
 右頬に残るひきつれた傷痕にそっと触れる。
 大分前に出来たこれは、吸血鬼に襲われて出来たものだった。深追いし過ぎた結果で、常人より格段に上の治癒力をもってしても二カ月程入院した上、今に至っても全快しない。以前のようにはいかない。
 アルコバレーノの一員とは言えど、そのレベルから落ちてしまった。
 ラルはホテルのベッドで足を組んだ。
 軍隊経験のある彼女にとっては柔らかすぎるベッド。尻から沈み込んで行くような感覚に眉をひそめる。
 落ち着く淡いオレンジの光が部屋を照らし出し、色香の薄いラルの肌を艶やかにしていた。
 シングルの部屋に他に人はいない。感傷的な気分の今、ラルだけの部屋は心地良い空間だった。
 ベッドの真向かいにある姿見に、足を組むラルの姿が見えている。
 鏡の中には、色気の無い女がいた。
 ゴーグルの奥の物知れぬ瞳が静かにこちらを見つめている。細い肢体を柔らかに包むスーツは派手すぎず、むしろ地味と言えるだろう。引いた口元も相俟って、女は色無く見えた。
 女である事を利用した事はあれど、意識した事はあまり無い。戦場にはあまり意味の無い事実だったからだ。だから、この感傷が、ほのかな焦がれから来るものなのか、それとも単なる愛情から来るものなのか、判別出来ない。
 今、この場においては、恋していたのかもしれないと思う。しかしそれは部屋の淡い橙がそう感じさせているのかもしれない。晴れた苛烈な大陽の下ではどうだろう。このもやもやは熱で燃え尽くされてしまうのではないか。
 吸血鬼のように――――。
「……馬鹿馬鹿しいな」
 感傷に浸って何になると言うのだろう。
 答えを求めるべき相手はもうここにはいない。一人問答を続けるほど感情的になれない。
 だったら意味が無い。
 ラルは立ち上がって靴をはかずに裸足で絨毯の上を歩いていく。窓まで辿り着くと、カーテンを開け放った。
 暗闇に背景を同化させている黒い山々。あのどこかにラルの求めるものがある。暗闇に潜む虫けらどもを引きずり出してやるのだ。
 陽に輝く金髪を思い返して、ラルは歯を食いしばった。
 ああ、どうしてだ。
 澱みの中にあった唯一の安らぎでさえ、あの虫けらどもは奪い盗ってゆく。いつだっていつだってそうだった。幼い時も、成長した今でさえも。
 ラルにとって吸血鬼は、世界の敵であり、同時に世界そのものだ。
 絶対に許したくない。許せない。
 握り締めた拳を振り上げ、窓に振り下ろす。
「コロネロ……っ」
 食いしばった歯の隙間から、滲み出る苦しみが、ラルを苛み続けている。
 裏切ったはずがない。そんな訳はない。きっと不慮の事態が起こったのだ。あれは変な所で抜けているから、きっと。虫けらどもに襲われて、それで、仕方無く。
 それでも、ラルの脳裏には、笑顔がしつこくまとわりついていた。
 さっぱりとして、何かを吹っ切れたような楽しそうな笑顔。このアルコバレーノだった時には見れなかった輝かんばかりの笑顔だ。
 振り返ってパソコンを見る。
 まだ、その笑顔は画面にいた。
「本当に?」
 焦点の合わないその写真には、幾人かが映っていた。場所はどこかのデパートだろう。
 数人の男女と共に楽しげに笑っているその青年の姿は、見覚えがありすぎるほどにあった。
「本当にっ」
 膝が折れて、全身から力が抜けた。
 柔らかな絨毯にへたりこみ、ラルはずっと、画像を睨み続ける。

 本当に、裏切ったのか。



 ――夜は更ける。






後書き
 久々の更新で、文章の書き方を忘れてしまった。
 ひとまず今回はアルコバレーノ側の話です。裏切り確定という感じです。
 伏線回収ならず。やばいな、どをどん追い詰められてんだけど、これ。終わんのか?
 次で接触なるか?

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