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燃焼

   

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吸血鬼パラ③


 吸血鬼パラです。テストなんか死んでまえ。








 その青年は、こちらを剣呑な目つきで睨んで来た。
 睨み返せば、慌てたように子供が間に入る。
「仲良くしような、二人とも!」
 邪魔された腹いせにその子供を睨めば、怯えた様子を見せる。それをさっと庇って背後に隠したその青年は、噛みつくように言い放った。

「吸血鬼と馴れ合うつもりは毛頭無い!」

 おろおろとする綱吉を後目に、コロネロと青年は火花を飛び散らせた。





暁光は剣となりて





 降り注ぐ木漏れ日を仰ぎ見る。
 ひんやりとした質感の岩に腰を下ろし、冬の緑に囲まれて深呼吸した。目を閉じて、もう一度深呼吸する。
 気持ちいい。
 そろそろ寒さも増す頃合だが、今日みたいな風の無い晴れ渡った日なら森林浴もいいかもしれない。
 そう思いながら、隣に座る彼はどうかと見てみれば、ぶすくれた表情を隠しもしない。まあ仕方なかろうと小さく頷き放置する。不機嫌な彼の視線を追って見れば、遠い街並みにもくもくと昇る一柱の黒煙が見えた。サイレンの音も耳に届く。市街地の外れで起こったぼろアパートの火事は、誰も死者を出さずに済むだろう。騒ぎの原因として責任をもって、住人の無事を確認したのだから。
 街を一望出来る山の高台に二人はいた。
 それにしても、最近襲撃がなりふり構わなくなってきた気がする。今までは人間にばれないようにこっそりと、吸血鬼を差し向けて来ていたというのに。今回とて、いきなり油をまかれて火を付けられたのだ。しかもお昼時、さあ食べようという瞬間にだ。
 隣の腹が鳴った。
 ため息を一つ。
 仕方ない。
 立ち上がって、小さな手をコロネロに差し出した。
 訝しげにするコロネロを強引に立たせてにっこりと笑う。
「さあ、行こうか、我が子よ」
 蜂蜜色の髪を持つ子供に言われ、身長182センチの金髪軍人が眉根を寄せた。
「行くって、どこだコラ」
 笑みを深めて見せれば、嫌そうな顔をする。
「知り合いのとこに厄介になろっかなって。あいつの所なら、奴らも手出し出来ないだろうし」
 一人勝手に頷く綱吉の額を、コロネロは指で弾いた。
「いたい」
 うう、と呻く姿は幼い。
「知り合いって事は、吸血鬼かコラ」
「違うけど」
 涙目をこすって――よほど痛かったらしい――綱吉は否定する。
「人間……って言っていいのか分かんないけど、身体は多分人間だよ」
 胡散臭い。
 思わず渋面になるコロネロの手を引いて、綱吉は歩き始めた。
 森の、更に奥の方へ向かっているらしい。
 引っ張られるがままに付いて行けば、やがて巨木に遭遇した。
 おそらく人の寿命を軽く超えているであろうそれに、意せずして感嘆の声が漏れる。
 どっしりと、腰を落ち着かせて居るその樹は、自然の中で悠々と自身の時に存在していた。漏れた光が幾条もの白の帯となって、様々な緑に降り注ぐ。湿った地面に、根を這わせ、ゆっくり息づくその樹は、確かに生きている。
 老獪さ漂う皺寄った分厚い肌には苔が乗り、蔓が太く強い腰を巻き上げた。良く目をこらせば、小さな虫がひっそりと生き、耳をすましてみれば、鳥の鳴き声が分かれた枝から聞こえてくる。
「綺麗でしょ」
 呆然として、腰から聞こえた声に肯いた。
 見上げて、樹のてっぺんを見つめた。
「全部、持ってかれそうだ」
 圧倒的な存在の前で、ちっぽけ過ぎる存在は無力だ。
 征服は出来そうもない。
「確かに、そうかもね」
 子供はぽつりと呟いた。
 でも、と続ける言葉に耳を傾ける。
「俺達を生んだ自然は、俺達から奪ったりはしないよ」
 そう言って、彼は大きな木に触れた。
 抱きつくようにして、目を閉じる。
「……この木はね、俺が植えたんだ」
「ツナが?」
 目を見張るのは無理も無い。
 この木を植えたと言うのなら、綱吉自身の年齢も相当なものになる。
 薄々感づいてはいた。襲って来る吸血鬼を軽くいなしたり、銃弾を宙でいとも簡単に止めたり、若い吸血鬼では有り得ないその力の数々。
 やはり、古血――オールドブラッド――だったか、と納得する。
 年を重ね、人の生を凌駕し、強大な力を持った吸血鬼は、畏怖とともにそう呼ばれる。例え外見が幼い子供であろうと、古血は古血なのだ。
「俺と、友達の二人でね」
 愛しそうに木の肌を撫で、子供は付け足した。
 今から会いに行く人だよ。
 その言葉に、少し興味がわく。
 この大樹を植えたという人間。
 吸血鬼を友とする、自分とは正反対の人間。
 美しい樹を植えた人間は、一体どういった人物なのだろうか。
「どこへ行くんだコラ」
「日本にいるんだけど、ここからはちょっと遠いかな」
 悩ましげにする綱吉は、やがてぽんと手を打った。
「ちょっと反則技を使うか」
「……何だそりゃ」
「昔言われたんだよ」
 コロネロの手を綱吉が取る。
 何事かと見守るコロネロは、次の瞬間起こった出来事にあんぐりと口を開けた。
 綱吉が持ち上げた自由な方の手が、何かの形を結ぶ。するとそこに、縦長に二メートル程の闇色の楕円形が現れた。
 奇門遁甲、大地の竜脈を利用して行われる呪術の一種だ。
 金色の光で縁取られる闇。
 この呪術を使える吸血鬼など、数える程しか知らない。
「瞬間移動は、反則技なんだってさ」
「……初めて見たぜ、コラ……」
「まあ、無駄に年は取ってるし」
 行くよ、と手を引かれ、コロネロは意を決して暗闇に足を踏み入れた。
 踏み入れたかと思えば、既にそこは、鬱蒼と木々茂る古い森だった。先程の森とは違い、どこか暗く、鬱々とした空気の漂う森である。濃い霧に遮られ、視界は劣悪だ。
 背後を振り返れば、既に奇門遁甲の闇は消え去らんとしていた。
 辺りを見回し、そして目をこらした正面の奥に白霧にまぎれて一軒の大きな日本家屋を認める。
「行くよ、コロネロ」
「行くって……いきなり行って大丈夫か」
「でかい図体に似合わず心配性だな、大丈夫だよ」
 失礼な台詞に目くじらを立てるが、綱吉が前方を示したのでそちらを見やる。何だかうやむやにされた気がしないでもない。
 綱吉の言う通り、屋敷から人が駆けてくる。
 現代日本に似合わないが、しかし屋敷にはぴったりと一致する袴をはいた少年だ。オレンジ色の頭を好きにはねさせている。手に持つゲーム機を振り回しながら懸命に走って来る。その後ろを、学ランを着、ニット帽を被った少年が困り顔で追い掛ける。
 妙にちぐはぐな格好をした少年は、綱吉の元に辿り着くと、ぱあっと笑顔を見せて綱吉に抱きつこうとした。が、後から追い付いた学ランの眼鏡少年に足を引っ掛けられて、草村に顔から突っ込んだ。
「びょんっ」
 変な悲鳴が聞こえた。
 こかした方はと言えば、平然とした顔で綱吉に向き直る。
「久しぶり、ツナ」
「相変わらずだね、千種」
 眼鏡を上げ、千種と呼ばれた少年は薄く笑む。
 その足下で、こかされた方が吠えた。
「千種の馬鹿ぁ! うさぎちゃんもひどいれす! せっかく、久しぶりに会ったのに!」
「ごめんごめん、犬も久しぶり。元気にしてた?」
 中学生ぐらいの少年が涙目でこけた格好のまま訴えるのに、綱吉は膝をついてオレンジ色の頭を撫でながら言う。それで機嫌を直したのか(単純だ)犬はにんまりと笑って立ち上がった。
「元気だびょん。うさぎちゃんは?」
「俺も元気だったよ」
 そこでようやく二人の少年の視線がコロネロを向いた。
 三人分の視線を一気に受け、コロネロは思わず言葉につまった。
「ツナ、こいつは?」
 その答えを綱吉が発しようとした瞬間、
霧が脈打った。
 濃霧の中に更に密なる霧が収束する。数秒、そのまま身をひそめていた濃霧は、そして一気に鎌首をもたげて白の煙から影を吐き出した。
 ぬらり、とその姿を現したのは一人の青年だ。
 黒いシャツに黒いパンツ。黒いジャケットを羽織った青年の剣呑に尖った瞳は、左は青、右は赤のオッドアイだった。青く光る髪は特徴的な髪型をしている。
 青年を見ながら、ふとコロネロは南国に行きたくなった。
 こちらを剣呑な目つきで睨んで来るのに気付いて睨み返せば、慌てたように綱吉が間に入る。
「仲良くしような、二人とも!」
 邪魔された腹いせにコロネロが綱吉を睨めば、怯えた様子を見せる。それをさっと庇って背後に隠したその青年は、噛みつくように言い放った。

「吸血鬼と馴れ合うつもりは毛頭無い!」

 おろおろとする綱吉を後目に、コロネロと青年は火花を飛び散らせる。
「忌まわしい種族め。陽光に灼かれるがいい!」
「んだとコラ! 俺だって一週間前までは人間だったんだ!」
「だか自身で牙を受け入れたんだろう」
「うるせえ! 好きでなった訳じゃ」
 言いかけて、言葉を呑んだ。
 綱吉を振り向けば、悲しそうに笑んでいた。
 場の微妙な空気に気付いたのか、青年が綱吉に視線を移した。ややあって彼ははっとする。コロネロに視線を戻し、驚愕の表情のまま、まさか、と呟いた。
「まさか、君の」
「コロネロって言うんだ。丁度一週間前に転化したばかりの若造だよ」
 コロネロに綱吉は近付き、そっと小さな手を、コロネロの大きな手に絡ませた。
 琥珀の双眸が、ルビーとサファイアを射抜く。
「俺の、血族だ」
 表情を消した青年の背後で、犬と千種が目を丸くする。
 下からじっと見上げて来る視線に口を引き結び、青年は綱吉を見つめ返した。
「その事で話があるんだ」
「僕は」
 言葉につまった青年に、綱吉は言う。
「お願い、他に頼れる人がいない」
 もう一度、お願い、と綱吉は繰り返した。
 数秒間、視線を交わし合った二人。
 邪魔出来る空気ではなく、黙って見守る三人。
 やがて、男が無表情を崩した。
「仕方ありませんね。僕はいつだって君に弱いんです」
 浮かべた笑みには、諦めを宿して、彼は綱吉に言った。
 聞こえた瞬間に綱吉も満面の笑みになる。
「ありがとう、骸!」
「その代わり、また一緒にデートしましょう。美味しいレストランを見つけたんです」
 くふふ、と不気味な笑い声を耳にした。
 コロネロは、記憶を探る。
 骸、と言う名に聞き覚えがあったのだ。
 確か、
「六道、骸?」
 探り当てた名を口に出せば、骸はコロネロへと向き直った。いつの間にか、その腕の中には綱吉が抱きかかえられて収まっていた。
「吸血鬼殺しの六道骸か、コラ」
「御名答です」
 コロネロは顔をしかめて足を一歩引いた。
「平安の六道の子孫か」
 ぷらぷらと宙で足をゆらす子供が、驚いたようにコロネロを見やる。
「コロネロ、骸の事知ってんの?」
「くふ、僕って有名なんですよ」
「昔は暴れ回ってたもんな」
「そう言えば、あの木を植えたのはいつでしたっけ?」
「ん? 関ヶ原のちょっと前かな?」
「そうそう、覇王だとか抜かしていた若造が死んだ時でしたね」
 ひくり、とコロネロの頬が引きつった。
 何だか聞き捨てならない台詞が出て来た気がするのだが。
 前世紀どころか、幾世紀も前の遺物は、朗らかに会話を交わしている。
「君の想像通り、僕は六道骸本人ですよ。ただし体は違いますが」
 悩ましげに眉をひそめる男を、腕の中にいる綱吉が見上げる。
「人の体は脆くて、二百年毎に体を変えなければならないんですよ。面倒臭い」
 不意に、骸はああ、と呟いた。
 嘘臭い笑顔を貼り付け、コロネロに向けて言う。
「いつまでも立ち話は難ですね」
 そして、霧の向こうの屋敷を示した。
「家、入りましょうか」
 抱き締められた綱吉が頷く。
 千種と犬が先へ駆け、ゆっくりと歩く骸と綱吉の後ろを歩きながら、コロネロは霧を吸い込んだ。

 初めに着いた時より、霧は、穏やかになっていた。





 す、すらんぷ?何か微妙。
 ちなみにムックが出て来たのはリオの趣味です。はい、骸大好きです。ムクツナは素敵過ぎると思います。
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