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燃焼

   

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吸血鬼パラ①

 今日は実験が無いので早く帰れるぜ。
 教授様が何でも人間ドックだそうで、今週分を先週の内に終わらせたのですま、その分先週が大変だったのですけどね。




吸血鬼パラでコロツナ。
暁光は剣となりて


 聞いても、返事は得られない。

 少年の視線は、テレビ画面上でちょこまかと動く敵に合わせて細かく動いており、こちらを向く余裕は無いからだ。しかも部屋中にやかましく鳴り響くゲームのBGMが、発する声を悉くかき消してしまう。
 間抜け面。せめて口を閉じろ。
 絨毯をひいた床に胡座をかく少年の右で、男は少し胡座の重心を移動させた。その本格的な軍服で身を包んだ姿は、日本の狭い安物のボロアパートには明らかに場違いだった。金髪を締める迷彩色のバンダナに触れ、眉根を寄せる。
 白い頬に、わずかに赤みがさした。
 話しかけては無視されを十回も繰り返せば、いい加減我慢の限界だった。元より、それほど気の長い性格はしていない。
 腰に手をやり、黒光るブツを取り出して躊躇い無く少年に向けて引き金を引いた。
 この間、一秒にも満たない。
 男はプロだ。銃口をぶれさせず、正確に少年の頭を狙っていた。サイレンサーを装着したそれからは、とても静かに鉛が発射される。
 距離一メートルからの発砲。
 一秒もかからない。銃弾が頭蓋骨をえぐり、脳を掻き回す、

はずだった。

「ちょっとぉ、危ないじゃんか!?」
 少し慌てたような声変わり前の声。素っ頓狂な驚きを含んだそれに、舌打ちで返した。
 銃弾は、静止していた。
 少年の頭の三十センチ横、コマを切り取ったかのように、重力に逆らいぴたりと宙に浮いている。
 危ないなぁ、と言いながらそれを摘み取り、少年はそれをまるで小さな虫であるかのように指先でぷちりと潰した。鉛玉を、である。撃った当の本人はけろりとした顔だった。あわよくば死んじまえと思っていたぐらいだ。そしてそれが叶えられないであろう事も彼は分かっていた。
 こちらを振り向いた琥珀がおかしそうに揺れた。
「お腹空いてない? コロネロ」
 コロネロと呼ばれた男は、思い切り顔をしかめた。その様子を見て、少年は声をあげて笑う。
「そっちじゃなくて、普通にお腹空いてないかなって。昨日から何も食べてないんでしょ」
「誰のせいだと思ってやがる」
「へへ、俺のせい」
「笑うな気色悪ぃ」
 言えば、ひどいと口を尖らせた。
 それから少年は立ち上がると台所の方へ姿を消した。ほどなくして、包丁がまな板とぶつかる音が聞こえて来たので、何かを調理しているのだろうと分かった。
 ポーズ画面を見やり、コロネロはため息をついた。
 襲い来る吸血鬼をぶっ殺すゲームだ。何て悪趣味な。
 そう思って、そしてもう奴らの考え方に染まっている事に気付いて愕然とした。
 ほんの三日前まで、コロネロは吸血鬼を狩る側だったのだ。それも、最強のヴァンパイアハンターのチーム『アルコバレーノ』の一員だった。
 それが一体全体どうして。
 画面に飛び散った赤に目がゆく。思わず、ごくりと喉が鳴った。
 今のコロネロは、人ではなかった。
 彼の人血は、吸血鬼のそれに染まってしまったのである。
「ミイラ盗りがミイラ……か」
 ことわざもあながち馬鹿に出来ないな、と自嘲した。
 誘うように明滅する赤から強引に視線をそらし、コロネロは立ち上がる。
 窓に近付くと、閉められた分厚いカーテンに手をかけ、思い切り良く開け放つ。
 昼が部屋に飛び込んだ。鋭利な白の光に目が眩む。グレーの部屋に、白と黒の明暗が出来た。
 ゆっくりと、嘆息。
 太陽光では灰にならない。
 ただし、やはり人であった頃とは違い、太陽を『痛い』と感じる。全身に降り注ぐ幾万本もの光の針は、吸血鬼に刺さり、じわじわとその身を苛んで行く。
 やはり、ヴァンパイアは夜に生きるしかないのか。
 コロネロは目を瞑って、全身の痛みに身を任せた。
 あるいは、これを何年も続ければ、いつかは灰になるのかもしれない。
 むしろその方がいい。今の俺を見れば、チームはどうするだろうか。
 うっすらと瞼を持ち上げる。
 海色の瞳が空を映した。
 ヴァンパイアハンターはヴァンパイアを狩るものだ。
 結論なんて一秒で辿り着く。
 コロネロは、もう一度瞼を下ろした。
「物好きだな」
 聞こえた幼い声に振り向けば、少年が目を丸くしてそこにいた。手には、雑炊の入った鍋を持っている。匂いが鼻に届いて、こんな状況なのに唾液が出る。食欲は正直だ。
 料理が出来ているという事は、日光に当たっていた三十分程だろうか。時間の感覚が麻痺している。
「コロネロって、M?」
「ざけんじゃねーぞコラ」
「だよねー、顔からしてSっぽいもんな」
 言いながら、彼はこたつの上に鍋敷きを敷いて雑炊を置く。そしてまた台所へと戻って行った。食器棚を漁る音がするので、お茶碗と箸でも探しているのだろう。本人が語ったところによれば、この家に他人が入ったのは初めてだ。それまで来客も無い一人暮らしの少年の家には、他人の用意など何もしてないに違いない。
 それほど、コロネロが少年の世話になったのは急な話だったのである。
 しばらくして、情けない顔をしながら現れた少年は、右手に箸、左手に蓮華を持っていた。
「どっちがいい?」
 へらっと笑った顔を殴りたくなった。割り箸すら無いのか。
 ひとまず、蓮華をもらった。それからお茶碗を。少年は箸と丼だった。まさかとは思うが、一つずつしか食器が無いのだろうか。それはそれである意味器用だ。こいての背景を考えれば、もっと豪勢にしてもいいだろうに。
 鍋からお玉で入れてもらう。
 湯気を立てるそれを吹いて冷ましながら、少年を伺い見た。
 幼い風貌。
 しかしその実、仮面に覆われた奥には、強大な化け物が潜んでいる。
「しかし、どうしようかな」
 ぽつりと、少年が呟く。
「何がだ」
 鋭く問えば、少年は悩ましげに口を噛む。分からないままに、コロネロは丁度冷めた頃合いの昼食を口に運んだ。
 咀嚼していれば、少年が口を開いた。
「俺さ、かなり微妙な立場なんだよね」
「ああ、知ってるぜ」
 三日前に血を闇に染められてから、十分に理解している。この七十二時間、一体何度襲撃されたか、両の手では足りない。
「それで、どうした?」
「当代が血眼で俺の事を探してるらしいんだよ、逃げきれないかも」
 そこで一層、少年は顔をしかめた。
「巻き込んじゃってごめんね」
 悲しげに揺れる瞳を、コロネロはじっと見つめた。
 月下を駆け、人間を襲う。
 だから、狩る。
 しかし人を襲うヴァンパイアは、全ヴァンパイアの内の五パーセントにしかならない事も知っていた。吸血衝動を抑えられない若い吸血鬼達の仕業である。
 基本的に吸血鬼達は、整然とした貴族社会の中に生きているのだ。もし禁を犯せば、制裁される。ハンターはロードと連絡を取る事は珍しくはない。持ちつ持たれつの関係なのだ。
 そうして考えれば、目の前にいるこの少年は、コロネロにとっての目標とは言い難かった。
「……構わねーぜ」
「はへ?」
 間抜けな声に、内心ため息をつきながら、コロネロは言った。
「ヴァンパイアになったのは心から不本意だがな、なっちまったもんは仕方ねぇ」
 良くも悪くも、コロネロは大して自分の人血に執着は無かった。
「ヴァンパイアには、血をもらった相手に従えって決まりがあるんだろ」
 よろしくな、マスター。
 付け足せば、少年が大きく目を見開いた。
 そうして、一瞬、切なげになった顔は、すぐに破顔一笑した。
「ツナでいいよ」
 その笑みは、外見に相応の、心から楽しそうな笑みだった。





 荒い息を吐く。
 畜生、呟いた。
 しくじった。自分の情けなさに涙が出る。
 既に痛みは消えた傷。真っ赤に濡れた手は、動かない。寒い。死ぬのか。
 死にたくなかった。
 せめて、せめてこうなった元凶に一矢報いてやりたかった。
 ある血族との話し合いに向かえば、そこで騙し討ちに合ったのだ。もめ事を起こしたばかりのその血族は、人間を毛嫌いしていた、見下していた、と言った方がいいかもしれない。話し合いのつもりだったから、武器は最低限。
 結果として、この様だ。
「あ……」
 とくとくと、心臓のリズムが危うくなる。
 死にたくねぇ。

「死にたく、ないの?」

 涼やかな声。
 閉じた瞼を渾身の力でこじ開ける。
 声のした方を見れば、人形のように能面な少年の姿。琥珀をそのままはめ込んだような目玉が、こちらを見下ろしていた。
 お前か、と呟いたはずの言葉は、空気をわずかに震わせただけで音にならなかった。
「生きたいの?」
 聞き覚えのある幼い声。しかし知らない冷徹さを含んでいた。
 死にたくない。死にたくないんだ。
 朦朧としながら、それだけを思った。

 コロネロは、目を閉じた。
 もう、余力は残っていなかったのだ。

 墜ちるように暗闇が訪れる。
 急速に呑まれた意識。






 次に彼が目を覚ました時に、見えたものは、光を内包した琥珀だった。


 そして彼は、血を闇に染める。





 最初はリボツナだったはずなのですが(最近そういうの多いな) コロツナの方がリオが萌えるのでコロツナに。
 続きます。何か良くわからんけど続きます。ちなみにBBBパロですが、九龍とか調停とか賢者とかは無しで。血統の設定だけをパロります。なのであんまり気にしなくて良いと思います。
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