瞳を通して向こう側。
温かく笑むその少年の姿。
笑い、はにかみ、時折うつむき、そして美しく舞う姿。
ああ、なんて。
薄暗い部屋だった。
衛生面では、とてもではないが、良い、とは言えない。じめじめとした牢獄に似た部屋。いや、ある意味牢獄であるかもしれない、なぜならここから逃げる事など出来ない、出来はしない。
青い瞳がぐるりと部屋を見回した。
ぎゅっと膝を抱き締め、部屋の隅にうずくまる少年は、その暗い目で、『仲間』を見た。
どの子供も、怯えている。がくがくと震える姿。吐瀉物が床に散らばり、中には発狂寸前の子供もいた。
少年は、眉根を寄せた。その耳が、大人の足音が幾つか、近付いて来るのを聞き取ったからだ。
子供達はびくりと肩を震わせた。
悪夢の時が来た。
哀れな、と少年は思う。ここから逃げる事など出来はしない。出来ないのだ。そうして、自分もこの子供達もすぐに死んでしまう。殺されてしまう。一瞬の痛苦であろうと、死を願う程の痛苦に食い殺される。
三人の白衣の大人。
鉄格子越しにこちらを値踏みするかのような、冷え冷えとする視線が、部屋を舐める。
「そういえば」
一人が、手に持つバインダーをめくりながら、言う。
「確か、『目』の実験がまだだったな」
二人がふん、と鼻を鳴らした。
「6号か」
「連れて来い」
「分かりました」
少年は、ゆっくりと顔を上げた。
一人の白衣の男と、目が合った。
「ああ、お前だ」
血が飛び散った手術室。
右目以外の部分を、緑色のカバーで顔を覆われる。
「おとなしいな」
「珍しい」
「所詮は子供か」
少年は、真っ直ぐに上を見ていた。
赤い、目玉。
美しい。
ぽつり、と脳内に響く自分の声。
次の瞬間に、焼け付くような痛みが右目を襲った。
「あああああああああああああああああああああ!!!!!」
麻酔をしていようと、起こる激痛に叫ぶ。
ぐしゃぐしゃと、瞳を抉られる。抉り取られたその目玉は不要物だった。
流れ出る血液。視神経を傷付けぬように、と研究者達が注意を払って、少年の右目は廃棄される。
熱さと凍えが同時に発生し、渦巻きながら少年の身体を襲う。
「ぎゃああああああああああああああ」
ふつ、と何かがはめ込まれた。
ああ。
何て。
醜い、醜悪な――――。
「骸?」
はっとする。
いつの間に眠っていたのだろうか。
ぎしり、と長椅子から身体を起こして、六道骸はこちらを見つめる男を見つめ返した。
髪は茶。目は金色。黄色人種、日本国籍所有、沢田、綱吉、ボンゴレ、ドン……。
六道骸は、そっと、目の前の男に手を伸ばした。
「さ、わ、だ、つ、な、よ、し……」
琥珀の瞳が、尖った。
伸ばした手は、ばしっと音をたてて振り払われる。
沢田は六道骸から数歩離れた場所へと跳んだ。
懐から拳銃を取り出し、青い髪、青と赤の瞳を持つ男へと向ける。
「お前は、誰だ」
「さわだ、つなよし」
「答えろ、お前は、誰だ」
「沢田、つなよし」
「お前、骸じゃない、誰」
沢田は、男を見据えた。
ああ、なんて美しい。
美しい、人であろうか。
少年は、手を伸ばした。
「沢田 綱吉」
ひくり、と沢田の頬が引きつった。
琥珀から、涙が一筋零れ落ちる。
「…………何で、僕だったのでしょうか」
「む、くろ……?」
男は立ち上がる。
沢田はそれをただ見つめているだけだった。
のそりと、鎌首をもたげる魔に魅入って、沢田は思考を停止させる。
「絶望していたからでしょうか、望みを絶やし、死を願って、希って、ただ僕は、あの赤が、目が、赤が」
男の周囲に霧が生まれた。
黒い霧。濃密なそれ。
「赤が、美しいと、思っただけなのに」
闇は朱へと転じた。
黒を食いつくし、朱へと染め、そして轟々煌々と燃え上がり、焼き尽くす。
「誰だよ!お前、骸は、骸はどこ!?」
六道骸ではないそれ、何故か心からの恐怖を感じるその『モノ』へと向かって、沢田は叫んだ。
「返せ!」
「無駄だ」
「何で!?」
「君は、美しい」
沢田が目を見開けば、眼前十センチに、六が見える。
ああ、と心の中で嘆息し、沢田は目を閉じた。
衝撃。
次に目を開けば、自身の身体には一振りの剣が刺さっていた。
心臓を刺し殺し、背へと抜けているであろうそれに、沢田は視線をやり、それから赤と青をじっと見やった。
「……かわいそうに」
ぽつりと呟き、沢田は崩折れる。
最期の一言に、六道骸は首をひねった。
「かわい、そう?」
可哀想可哀想可哀想に。
ああなんて哀れな子羊だろう。ああなんて、嘆きを知らぬ子供よ、君は一体、どうすれば。
「かわいそうに」
六道骸は、赤い手を見つめ、そして眉を寄せた。
沢田綱吉の言葉を、彼はどうしても理解出来なかったのだ。
はい、意味不明でしたー。えっと、ま、雰囲気でよろしくお願いします。はい。
六道と骸は別物みたいな感じで、少年は赤い目に染まってしまったというか何というか。元の人格と混ざり合って、でも六道よりになってしまって、ちょっぴり狂い気味で、それをツナは気付いて恐ろしく思った――――ってなげぇよっ。うん、意味わからんね。
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