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燃焼

   

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流星症候群

 コードギアス本編ガン無視設定の騎士皇子小説。なるだけカップリング色は薄めています。
 それでもよろしければ、下へどうぞ。















 もう充分だ、もう沢山だ。
 僕が一体何をしたというんだ。

 こんな事なら、あの時、肯かなけりゃ良かった!





流星症候群





 アリエスの離宮を青年が闊歩する。
 黒い髪に紫の瞳。すらりとした姿態は迷いを見せずに颯爽と風を切って歩みを進める。まとう皇族服は、髪と同じ黒。穏やかな離宮の中にあって彼だけが硬質な存在感を漂わせていた。
 豪華ではあるが、数ある離宮の中ではアリエス宮の価値は低いものだった。今は亡き皇妃マリアンヌは貴族ではなく平民から奔放で勝ち気な性格で上り詰め、その地位を勝ち取った。しかし所詮は庶民出。他の気位高い皇妃達が彼女を気に入る訳でもなく、マリアンヌ妃は離宮アリエスへ追いやられ、ついには殺されることになる。
 今、そのアリエス宮を淀みなく進む青年こそ、マリアンヌの一人目の子であり、アリエス宮の当代の主である。第十七位と、近くはないが遠くもない皇位継承権を持つ彼は、後ろ盾の貴族からじりじりとした急かされ方をされていたが、それでも自分を見失う事無く、ひっそりと平穏に生きる事を選んだ。
 しかし長年の他の皇妃からの嫌がらせのせいか、案の定、彼は――。

「殿下――っ!!」

 どこからともなく聞こえてきた晴天高らかに響き渡った悲鳴のような怒声に、青年はほくそ笑んだ。
 脱走がばれてしまったらしい。しかしもう遅い。
 青年は既に秘密の抜け道、つまりアリエス宮からの出口の真ん前にいる。今日は別の離宮に行くから一般人の服に着替える必要は無い。
「まだまだ甘いな」
 こうも簡単に脱走を許すようでは、と肩をすくめた彼こそ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアである。
 そしてルルーシュは高価な服が汚れるのも気にせず、無造作に地面に膝をつくと、秘密の抜け穴に――まさしく文字通り抜け穴である、茂みの中の小さな獣道だ――体を突っ込んだ。そこそこに長い抜け穴を不器用な四つん這いで進む様を見て、誰がこれを皇子だと思うだろう。晴天だが、そろそろ秋に移ろうかという季節だ、下の土は湿っている上、鋏虫や団子虫など、お世辞にも見目がいいとは言えない虫もいる。茂みをかき分け、虫におっかなびっくりしながらようやく見えてきた出口に溜め息をついた。
「くそっ、蜘蛛の巣が邪魔だな。もうちょっとマシな道にするべきだったか」
 ぶつくさと文句を言いながら、出口から顔を出せば、そこには黒い騎士服を着た赤髪の女が一人、物言いたげな表情でこちらを見ながら、男らしく胡座をかいて座っていた。
 あ、とルルーシュが小さく声を漏らす。
 はあーと大きく溜め息をついた彼女は、ルルーシュの首根っこを掴んで抜け穴から引っ張り出した。
「おい!」
 そのままずりずりと引きずられて行くルルーシュ。
「殿下、まだ仕事が残ってますよ」
 凛とした声音には呆れが含まれている。豊満な肢体を長いマントに隠す彼女は、引きずるルルーシュをちらとも見ない。
「だから抜け出したんだ! 引きずるな! 自分で歩ける!」
「我慢しなさいね」
 本来ならば不敬罪で首が飛ぶような所業だが、彼女がそれを許されるのには理由がある。
「まったく、泥だらけじゃないですか」
「離せ、カレン!」
「私も仕事ですので」
 カレン・シュタットフェルトはルルーシュの第二騎士である。深窓の令嬢が曰く付きの第十一皇子の騎士になった理由は後に譲るとして、彼女は一癖も二癖もある皇子を御せる幾人かの内の一人だった。
 騎士になった当初は振り回されてばかりいたが、今はこうして彼の首根っこを掴むまでに至る。
 時折出会うメイドや使用人たちは微笑ましそうにその光景を眺めている。アリエス宮においてはいつもの光景だった。
 アリエス宮の中へと戻り、ようやく解放されたルルーシュが文句を言いながら立ち上がる。
 門番が笑いを堪えている。ルルーシュはその顔をしっかりと記憶した。何に反映させるかなんて決まっている。次のボーナスにだ。ルルーシュのその殺気に似た何かを感じたのか、門番はびくりとして笑いを引っ込めた。
 彼はカレンを睨み付ける。
「お前は乱暴すぎるぞ。オレンジ君なら丁寧に」
「あの人は殿下を甘やかしてるだけ。私みたいに厳しくしないと、殿下の仕事の山が減ることは永遠に無いと思いますけど」
「いいんだ、やってないだけだし」
 ふふ、と不敵に笑えばカレンがまた溜め息をついた。
 不意に、ルルーシュが首を傾げる。
「まだか?」
「そろそろかと」
 きょろきょろと辺りを見回すルルーシュ。カレンはこれで最後にしようと思いながらも、きっとまたつかねばならないであろうため息を、そっと心の中でついた。最近、殿下の暇つぶし対象になってしまっている哀れな犬に、小さくご愁傷様と呟く。
 お、とわくわくを一つに凝縮したような音が聞こえた。隣を見ればルルーシュが嬉しそうな表情で、アリエス宮の中から猛然と何かを喚きながら走ってくる人影を眺めていた。
 石畳に立つ二人の元に、それが来るのは大して時間を要しなかった。
「殿下――っ!!」
 茶色のふわふわ頭に釘付けのルルーシュ。ああナナリー、と彼が呟いたのをカレンは聞かなかった事にした。
 黒い騎士服の基調はカレンと同じものだ。つまり彼は彼女と同じくルルーシュの騎士だった。ただし、まだなったばかりの新米騎士だ。年齢はカレン、ルルーシュと同期だが、何の琴線に触れたのか、出会ったその日から彼はルルーシュにいじられていた。
「いい加減にして下さい殿下っ!! 今日で二度目ですよ!?」
 アリエス宮を走り回ったのだろう、ふわふわ頭は乱れ、厳格な騎士服はよれよれになり、わずかに汗をかいていた。最初に叫んだのも彼だ。懸命に探して回ったのだろう。緑の目には涙が浮かんでいる。
「一度目はダミーだ。今日はもう無いと安心しただろう? 気の緩みだな、まだまだだ」
「騎士の仕事は主の脱走を止める事じゃありません!」
「ほーう、だったら今のお前にどんな騎士の務めが果たせるか言ってみろ。新米騎士の枢木君?」
 そう意地悪げに問いかければ、彼、枢木スザクは答えに窮してしまった。実際、付いていくのがやっとな彼に出来る仕事はせいぜい殿下の身の回りの世話ぐらい。なのに騙され、脱走され、挙げ句の果てに同い年の女騎士にフォローをしてもらったとあっては、ぐうの音も出ない。
 黙り込んでしまった騎士の頭をぽんと叩いて、ルルーシュは鼻歌を歌いながらアリエス宮から出て行く。
「ちょっと、殿下?」
「止めるなよ。俺はもう限界なんだ」
 カレンが慌てて行く手を遮る。
「でもまだ仕事が」
 言いかけたカレンは眉をしかめた。
 ルルーシュの浮かべる笑みには心当たりがあった。つくつもりの無かったため息をつき、どうぞ、と道を開ける。
「晴れてはいますが肌寒いので、何か上着を……」
「いい。オレンジがいるからな」
 慌てる枢木を後目に、ゆうゆうとルルーシュはアリエス宮から出て行った。
 出口の所でルルーシュに寄って行くのは馬をひいたもう一人の騎士だ。こちらをかわいそうなものを見る目で見るあたり、どうやら、全て殿下の計画の内だったらしい。
 残されたのは額を押さえるカレンと呆然とするスザクだけだ。
 何が何だか分からないという顔をしているスザクを連れ、カレンは主の執務室を目指す。
 扉を開けば山になった仕事の紙束。顔をしかめるスザクを置いて、カレンは整頓されている執務室へと踏み込む。汚いのは机の上と周りだけだ。
 上質な濃い茶色の机は、贅沢をしないルルーシュの唯一の贅沢だ。
 机の上の仕事の山はよく見ると全て、裏紙にと置いていたいらない紙ばかりだ。要はゴミの山である。
「騙されたわね。スザク」
 ひらひらと一枚をとって同僚に見せれば、彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。気持ちは分からなくもない。
 斜めに長細い字で大きく書かれていたのは、
「『イチゴのショートケーキとピーチティー』か。僕が買ってくるんだよね」
「他に誰かいるかしら」
 渋面になったスザクをよそに、カレンはクローゼットを開いた。
 案の定、そこには綺麗に整頓された書類があった。
 本日、殿下がすべき全ての仕事が、完璧な状態でそこに隠されていた。それを見せてやれば、スザクはやるせない表情になる。
 カレンが取り出したそれを受け取り、書類を持って行く先を確認していたスザクは、十枚目でそれをやめた。どうやら、持って行きやすいように区分分けしてあるらしい。まさに文句の付け所が無い。
 結局、全てはただのいたずらだったという事だ。それも相当手の込んだ。わざわざ仕事が出来ていないと偽装してまで、スザクをからかうのだから、とてつもなくたちが悪い。
 疲れた風情の被害者が書類を持って行くのを見送りながら、カレンはふと遠い目になった。
 彼女が主の笑みを見ただけで、真相を悟れたのは、主と以心伝心だからという訳ではない。彼女自身、経験した事があるからだ。
 あの時は大変だったなあ……。
 悲しい過去を思い出すと、たまに疑問に思う事がある。
 これって、他の主従はどうなんだろう。
 しかし、更にやるせない気持ちになるのが怖くて、疑問を持ってから三年、未だに彼女は誰にも尋ねられていない。
 そしてそれはこれからもずっとな気がしていた。





 後書き

 後三話で終わるというのに、やってみます。いいんです、自己満足です。
 例え本編があれでそれでこれであっても、全てを妄想力で補えるのが腐れなんだと思います……。
 ああ、本編が鬱すぎるよ……。

 続きます。
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