愛していたんだ。
ソファに沈み込んで言葉をこぼした男を、立ち尽くす少年は丸い瞳でじっと見つめていた。
高級ホテルの落ち着いたクリーム色の広い洋室。カーテンは全て締め切られている。本来ならばここから覗き見る都内のネオンが売りであるはずだ。最上階でワインを傾け、愛しい人との愛を語らう。
男も、かつてはそうだった。
うつむいていた顔を上げ、ガラスのテーブルから赤いワインを取り上げ、そしてボトルに口付け一気に飲み干す。しかし無理に飲み干そうとしたせいか、途中でむせ返ってしまった。せきこみ、皺が出始めた目じりに涙を浮かべる男を少年は見つめ続ける。
何度か空咳をして、男はようやく落ち着いたのかソファへともたれかえった。ボトルはテーブルに戻す。
高いスーツをだらしなく着崩し、白髪の混じった髪は乱れている。髭を剃る事さえ忘れてしまっていた。
その男が、栄華をほしいままにしていた事など、今はもう誰も想像出来ない。
「……愛して、いたんだよ」
もう一度言って、男は少年へと視線を向ける。
少年は、わずかに口角を上げた。
丁寧に整った顔は、人間でありながら人形のような無機質さを漂わせていた。
はらり、と肩まで伸ばした銀髪が、耳から落ちる。
「それは言い訳にはならない」
「ああ、知っているさ。だから、君が、」
来たのだろう、と男は饐えた笑いを浮かべた。
対してこくりと頷く少年は、一歩男に近付いた。
「
限界だ。
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