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燃焼

   

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土曜日


 何かかわいそうなムク綱。
 ヘタレな骸。
 シリアスほのぼのと見せかけて、ギャグが入る。


 続きよりどうぞ!














 唐突に涙が出た。


 「あ、ああぁ」


 ぼろぼろと、涙が溢れ出る。
 俺の目から、溢れ出る。

 収まる気配を見せないそれは、ぼろぼろ、ぼろぼろと、輝く透明な粒となって、頬を転がり落ちて行く。
 涙を流すだけじゃあ、胸につっかえた何かは、外れない。
 涙を流すだけじゃあ、なぜか存在する心のうつろは埋まらない。
 広い部屋で一人、叫ぶんだ。
 俺は、叫んだ。

 「あああああああ」


 しゃくりあげ、理由の無い涙を流しつづける。
 ただ、なきたいだけ。むしょうに、叫びたいだけ。







 何、してるんです。

 不意に、聞こえた声に俺はしゃくりあげながら、扉を振り向いた。

 解せない、といった表情で、黒いスーツ姿の青年が一人、立っていた。
 手に持っているのは白い紙束。何だ、また仕事を増やしに来てくれたのか。
 赤と青のオッドアイは、俺を不気味そうに眺める。
「何を、しているんですか?」
「……、ないて、るんだよ」
 六道骸は、部屋の片隅でうずくまる俺に近寄った。
 見下ろしてくる彼を俺は見上げた。
 未だに彼の眉間には皺がよっている。
「……泣いて、いるのですよね?」
 確認してくる言葉に、頷いて、俺は抱えた膝頭に額をなすりつけた。
 ああ、もう少し泣いていたかったけれど、もう仕事に戻らなきゃならない。
 面倒だなあ。
 時折全てを捨てて、逃げ出してしまいたくなる。
 圧迫された空間から、息のつまりそうになる広いはずの狭い部屋から、俺の、世界から。
 世界が広いだなんて、俺は嘘だと思う。
 俺は仕事の為の部屋の片隅で、壁を背にして、膝を抱えて、じっと動かない。
 そこから眺める世界は、のっぺらぼうのように丸みを帯びて凸凹の無い球体でしかない。
「そうだよ、地球は球体なんだよ」
 ぽつりと呟いて、膝頭から額を離す。
 六道を見上げてみれば、彼は目を丸くしてこちらを見ていた。
 そうだよな、と笑いながら尋ねれば、六道は一瞬顔をしかめたものの、すぐに微笑みを浮かべて見せた。
 膝をついて、俺の目線に合わせてくれる。
「そうですね。球体です。……まあ、少しつぶれた楕円なんですけどね」
「お前、人の思考に水さすなよな」
「くふ、まあ、いいじゃありませんか」
 ひどい顔ですよ、と六道は首を傾げた。
 そりゃあひどい顔だろう。
 延々となきつづけていたのだから。
 鼻水をすする。何回かこすったから目は真っ赤だろう。明日腫れるのを覚悟しておいた方がいいだろうな。
「むしょうに、さぁ」
「はあ」
 気の無い返事だが、綱吉はぼうと呟いた。
「ただ、泣きたくなる瞬間って、お前、無い?」
 泣きたくなる瞬間。
 鸚鵡返しに呟いた六道は、目をぱちくりとさせる。
 ああ、こいつにはそんな瞬間は無いんだ。
 きっと心が疲れ果てるという事も無いのだろう。
 だって彼は強い人だ。
 だけど俺は弱いんだ。
 俺は、俺は。
 もう、

 疲れてしまった

「泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて……、ただ、なきつづけて、俺は、何かわからないけれど」

「洗い流したいんだ」

「洗い流して、生まれ変わって、そういう、儀式なんだ」

「俺は、泣きたい」



 言ってそれから、綱吉は膝頭に額をつけた。
 再度訪れる闇。
 目を堅く瞑れば、もう全てから途絶された世界に没頭できる。
 何も見なければ、何も聞かなければ。
 俺はただ、安穏の中で生きてゆける。

 六道が動いたのだろう、衣擦れの音が小さく部屋に響いた。

「大丈夫です、わかりますよ」

 僕は、と六道は続けた。

 空気が耳元を動くのを感じた次の瞬間、俺は温かい何かに包まれていた。

「君は、『人間』、です」

 耳孔に注ぎ込むかのように囁かれたその言葉に、はっとして瞼を開く。
 黒いネクタイが視界に入った。
 ほどなくして抱き締められているのだと理解する。

「大丈夫ですよ、沢田綱吉」
「何が」
「悲しくて泣くのは、『人間』だけだと聞きました」
「それが」
「だったら君は『人間』でしょう」
「どうして」

「だって君は、悲しくて泣いているのでしょう?」
「……」

 唐突に、理解した。

 ああ、そうだ。
 俺は悲しくて泣いているんだ。
 苦しくて泣いているんだ。
 俺は、



「沢田綱吉」


 耳朶に甘く響く六道の柔らかな声に酔いしれる。
 硬い胸板にもう片方の耳を押し付けた。

 ゆっくりと動く心臓の声。
 
「僕と、逃げましょう」

 何て甘い甘い、かぐわしい声だろう。

「君が泣かない世界に連れ出してあげます」

 綱吉は瞼を閉じた。





 それも、いい。















 だけど。





 扉を閉め、廊下へ足を踏み出す。
 ふん、と鼻を鳴らして、六道は言い放った。
「出てきなさい、アルコバレーノ。いるのでしょう?」
 諦めを含んだ声音に、硬い足音が答える。
 突き当たりの曲がり角から、小柄な影が姿を現す。
 闇を体現したような真っ黒なスーツを着た少年は、にやりとボルサリーノを上げた。
「よお、不機嫌そーだな」
 六道の頬がひくりとひきつった。
 足早に廊下を突き進み、彼はリボーンに詰め寄った。
「不機嫌だと!? それだけで済ますつもりか!?」
「何の話だ?」
「知っているくせに! 貴様のおかげで僕がどれほど!」
「どれほど、何だ? どれほど嬉しかった、か?」
「うるさい!!」
 ちらりと、自分より背の高い男を見上げたリボーンは、男の顔が真っ赤に染まっているのを見て、心の中で溜息をついた。
 もう少し、骨があるのかと思っていたが、意外と初心だったらしい。
 というか、何故にあの綱吉なんかに……。
「いいじゃねーか、別に。念願が叶ったんだろ?」
「何が!」
 トマトみてーだ、と思いながら、リボーンは上げたボルサリーノを下げ、口元だけで笑ってみせた。

「さりげなく、抱き締められたんだろ?」
「っ!!!!」

 息を呑む音が聞こえた瞬間に、六道は踵を返してその場から走り去ってしまった。
 その背に向かって両手をメガホンにして呼びかける。
「スーツに鼻水ついてんぞー」
 派手にずっこけながら走り去る六道が見えなくなってから、リボーンは執務室の扉を見やる。
 閉じられたその向こうで、教え子は今どうしているのだろうか。





 「ごめん」

 心臓から頭を離して、綱吉は六道を見上げた。
 甘い声とは裏腹に、生真面目そうな瞳と視線がぶつかった。
 その目は、次に来る言葉を予感しているようだ。

「俺は、行かない」

 六道の口角が上がった。
「でしょうね」
 抱き締める腕に力が加わる。
「そう言うと思いました」
「へ?」
「甘ったれたことを言っている暇はありませんよ、ボンゴレ十代目」
「はは、お前には敵わないや」
 おとなしく抱き締められる。
 今度は、心臓の無い側の胸に額をぶつけた。

「ですけど」
「ん?」

 少し躊躇いがちに、六道は呟くように言った。
「いつでも、呼んで下さい。あなたが泣きたいときに、僕が傍にいますから」
 綱吉は目を丸くする。
 ぎゅっと引き結ばれた口元を見て、頬が綻んだ。


「ああ」


 ありがとう。








 もうちょっと、ダークコミカルにするつもりだったのに。
 骸はへたれです。かっこいい事いいながら内心綱吉君萌~な奴です(←)
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