くふふふふ。
怪しげな笑いが部屋に響く。
カーテンを締め切ったその部屋には薄明かりしかない。
そんな中でたった一人、少年はうつむいて、くふふ、と笑っている。
くふふ、ふふふ、と虚ろに響く笑い声。
「……何してるのさ、沢田」
部屋に入るのを、並盛最強の中三生が躊躇うのは無理からぬ事である。
くふふと笑ってみませんか。
「雲雀さん!」
満面の笑顔でこちらを振り向いた沢田綱吉に、部屋の入り口で扉を開け放った姿勢のまま硬直していた雲雀が、ぎこちない微笑みを返す。今先程のおどろおどろしい空気などなんのその、ぱあっと一瞬で部屋は明るい雰囲気を取り戻した。
しかし今のは一体何だったのだろうか。
扉横にある電気のスイッチを点け、部屋に踏み入れれば、綱吉がいそいそと雲雀用の座布団を出してくる。そこへ座り、雲雀はテーブルをはさんで綱吉と向き直った。
「……で?」
「何でしょう?」
首をきょとんと傾げる姿は、草食動物以外の何者でもない。しかしどこかその微笑がうそ臭いのは気のせいだろうか。
「何なの、今の笑い。不快な笑い声が聞こえて来たんだけど」
「不快だなんて失礼な!」
綱吉は声を荒げた。
「……つなよし?」
「骸の笑い方って素敵じゃないですか! 誰も考え付かないような孤高の極み! 聞いただけで惚れちゃいそうですよね」
「……」
雲雀は沈黙した。そして明後日の方を見てみた。
おかしい。どこかおかしい。
頬に冷や汗が流れる。
「あのきらきら輝く微笑に、しかも芸術的な髪型。くふ、パイナポーだなんて蔑む輩は地獄に堕ちるがいい!」
視線を外してみても、耳に届いて来る綱吉の言葉は、毒々しいオーラに彩られている。
何故だろう、気のせいだろうか。
何だかいつもと違う。というか、発言がおかしい。
ぼんやりと考える雲雀を覗き込む綱吉は、くふふと笑った。
「ねえ、そう思いませんか、きょ・う・や・さんっ」
ぞぞおおおおおっ。
一気に粟立った腕を押さえ、雲雀はその場から飛びのいた。
何故だ。
今まで雲雀さん呼びだった草食動物が恭弥さん呼びに変わっただけだ。むしろ喜ぶべき事のはずなのに、悪寒と吐き気が止まらない。というか、気持ち悪い。
にこにことする綱吉を見下ろし、雲雀は自分の腕をつねってみた。
「……痛い」
「そりゃ痛いに決まってますよ、お馬鹿なスズメさんですねー」
「君、沢田だよね」
「そうですよ? あなたの恋人と見せかけて実は六道骸を心の底から愛する沢田綱しいっ!!!!」
「何やってんだテメエエエエエエエっ!!!!」
がんっ。
飛んで来たパイナップルジュースの缶が綱吉の顔面にクリーンヒットする。
のけぞり、床に倒れた『綱吉』を、部屋に飛び込んで来た『綱吉』がこれでもかと足蹴にしていた。
「嫌な予感がしてみりゃこれかよ!? ってかテメエ、わざわざ有幻覚使って何やってんだ、アホか、アホなのか!? 駄パイナポー! 地獄に落ちて二度と帰って来んじゃねえっ!!!!」
「ちょ、やめなさい! 君今自分の体を蹴ってるんですよ、もっと手加減あ、いた、痛いです! やめて下さい綱吉君! でもやっぱりやめないで!!」
「きめえええええ!!!!」
綱吉が叫ぶと同時に、霧が部屋に立ち込める。
何も見えない濃霧が固まり、次に融けた時には、『綱吉』が蹴り飛ばしていた『綱吉』は、別の少年へと変化していた。
「……六道骸」
「くふふふ、楽しかったですよー? きょ・う・や・さん!」
「噛み殺す!!」
「よし、行け、雲雀さん。今日こそこいつをやっつけて!」
「任せなよ、沢田。今日という今日は手加減しない。全力で殺してやる!」
「あれ、何ですか、二人共。目がマジですよ? ええ、ひどいですよ、ちょっとした戯れじゃないですか。そこまで真剣に怒らなくても。僕だってパイナポーの缶詰状態で退屈なんですから、ねえ……え、嘘、ちょっと、綱吉君に雲雀君!? え、やめ、」
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!」
闇黒ツナサンドでギャグでした。
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