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燃焼

   

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くだん 弐


 くだんの第二話。何だか気持ち悪い感じ。

 綱受のくせに綱が出て来ず、雰囲気がムクヒバくさいので、苦手な方は要注意。


 ……っていうか、最近要注意小説ばっかりな気がする。性的注意、グロ注意、流血注意、他カプ注意……。ほのぼのとか書くべきだろうか。








 田に片足を踏み入れた。
 草履の裏の湿った土を踏む感触に溺れる。
 視線の先には、育たない作物がある。
「……」
 十の子供でも理解出来た。今年の米は、もうだめだろう。去年の蓄えも少ない。絶望的だ、とさえ言える。例年にない冷夏だったせいで、育つ米も育たなかった。
 ぼう、と考える男児は、田から足を引き抜いた。畦道に戻り、その場に座り込む。
 外界と遮断されたこの小さな村、隣村に行くまでに山を二つ、越えねばならない。すんなりと行けても、一日は歩き通さねばならなかった。米だけではない。畑の野菜も、不作だった。家畜も育ちが良くない。山があるとは言えど、周囲の山は荒れ山で豊穣の山とはとても言えない。
 食物が、無い。生き抜くために必須の、食物が。
 小さく眉をひそめて、男児はいつもより寒い夏を歩き出す。短い黒髪がうっすらと凍える風にそよいだ。
 小さな村だが、彼の住む家まではまだもう少し歩かねばならない。夕焼けにさしかかろうという頃合だ、そろそろ家に帰らねば、鬼に攫われてしまうかもしれない。大人達が口すっぱく言う台詞を、頭の中で繰り返した男児は、おとなしく帰宅の途につく。
 数分も歩かない頃、男児はふと足を止めた。
 目の前には、赤い太陽。
 そして、背後を振り返れば、黒い影が土の道にずっと伸びていて、その、先に。
「……ああ」
 ふと、男児は声を漏らした。
 彼の影の頂点、頭を踏みしめているのは、
「六道」
 村の異端児が、そこで薄っすらと笑顔を浮かべて、立っていた。
 年は十五、六あたりで自分よりも年上だった。幼い風貌を残しながらも、少年の顔には老獪としか言いようのない達観さが窺える。確か、二年ほど前に、ふらりとこの村に辿り着き、村の外れの暗い沼のほとりに小屋を建て、たった一人で住んでいる。
「こんにちは」
 うさんくさい笑みだ。笑っていても、真っ黒な双眸の奥に、何かに焦がれるような小さな怪しい焔が疼いている。
 雲雀恭弥は、この男が大嫌いだった。
「……何の用? お前があの小屋から出て来るなんて珍しいじゃない」
「別に、たいした用じゃあ、ありません」
 六道は、雲雀の影から出ず、むしろあえて踏むようにして雲雀に近付いた。
 父や周りの大人が言っていた事を思い出す。六道には近付くな、誰もが口を揃えてそう言っていた。
 睨みあげれば、くふ、という笑い声が聞こえて来た。
「雲雀の三男坊、もう夜ですよ? 早く帰らねば、『何か』に喰われてしまいます」
 じろり、と無遠慮に、そして楽しそうに見下ろす視線は、雲雀の全身をくめなく探るようにして動く。
 眉をひそめた。
 気味が悪いのだ、この少年は。
 いつもは小屋の中に一日中こもって、姿を見せない。
 狩にいくでもなし、田も畑も耕す訳でもない。昼も夜も火をともす事は無いのか、小屋から煙が出ているのを見た者は誰もいない。食事をとる風景も、だ。人としての生活を全く見せない。それもあって、村人達は皆、六道を化け物だと噂する。いや、もしかすると、本当に……。
 真っ赤な太陽に照らされた少年は、雲雀を、じっと、見下ろす。
「今、僕をつけていたんじゃないの?」
「いいえぇ? 別に。ただ、そうですねぇ……」
 わざと、少年は鼻につくような喋り方をする。
 楽しそうに、楽しそうに。
「雲雀の三男坊、お父上の村長に伝えておいてください」
 腰をかがめ、六道は雲雀の視線に合わせた。
「伝えるって、何を」
「急いてはいけませんよ。人の話は最後まで聞きましょう」
 六道は微笑んだ。
 今まで彼は何に触れて来たのか、真っ白で傷一つ無く、血の気の無い手を、雲雀の頭にそっと乗せ、撫でながら六道は言う。

「間も無く、生まれ出でる『それ』が現れれば、すぐに僕の小屋へと使いを寄越しなさい」

 瞬間、今まで黒かった六道の双眸が、ほんの刹那、瞬き一つにも満たない間だけ、別の色へと輝いた。
 思わず目を見張る。
 けれど、それはたった一瞬のことで、もしかすると夕日のせいか、あるいは自分の白昼夢か、そして、事実であるのか判別出来なかった。けれど、確かに輝いた気がしたのだ。
 雲雀が、口を開けて、その事を問い質そうとした時、六道は雲雀を撫でる手を引き、すっくと立ち上がった。
「忘れてはなりません。必ず伝えなさい。そして、決して怠ってはなりませんよ」
 一つ、笑い声だけを残して、六道は踵を返す。
 後には、灼熱色の太陽を背後に、呆然とする雲雀を残して。



 「六道に会ったのか!」
 村長である父に伝えれば、まず叱責された。叱責というよりは、心配、だろうか。
 一通りの説教の後、父はほう、と息をついた。
「それで、何と?」
「『それ』が生まれたら、知らせてくれって」
「『それ』?」
 訝しげに問い返されても、頷くしかない。六道は、『それ』の名を言わなかったし、具体的なことは何も語らなかったのだ。あの男は、本当に嫌な感じがする。
 苦虫を噛み潰したような顔をした父は、囲炉裏の傍に座り込んだ。
 しばらく、何事かを考えていた父は、もう一度溜息をついた。
「恭弥」
 呼ばれ、父の前に正座する。
「今日のことは、絶対に誰にも言ってはならん」
 こくり、と頷く。
 分かっている。
 閉鎖的な村だ。
 六道の話を聞けば、混乱が起こることは間違いないだろう。
 父の判断は正しい。
「『それ』が何かは分からんが……らしきものを見つけたら、すぐに私に知らせなさい」
「はい」
 何が来るのか。
 六道は、何を求めているのだろう。
 あのよく分からないにんまりとした笑みの奥に、雲雀は何かを見た気がしたのだ。

 焦れて焦れて焦れて焦れ尽くして、熱し過ぎる。

 六道は、そういった先にある、ひんやりとした冷気をまとっていたかのように、見えた。





 ああ、楽しみだ。楽しみで仕方が無い。大丈夫大丈夫ですよ。僕が助けてあげますとも。
 あの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあのあの時もあの時もあの時もあの時もあの時も時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの侍もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時あの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時だって。
 いつだって僕が、助けてあげました。
 今度だってそうです。
 そうですとも。

「早く、早く生まれて来なさい」

 六道は、にんまりと、笑った。







後書き

 まあ、思った感じに進まないのはいつだってそうですね。BGMはひぐらしです笑
 骸がよくわからん感じだったり、雲雀が雲雀じゃなかったり、ツナ受のくせして綱吉のツの字も出てこなかったりしています。うーん……三話完結のつもりだったけれど、これ次回で終るのかなあ(ま・た・か)
 あ、実は骸のあの時~の羅列ですが、一つだけあの侍が混じっています。別段意味はありません。見つけた方はちょっぴり幸せになります。嘘です。いや、暇だったら探してみてはどうでしょう笑

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