まだ自我さえ造られていない幼児を連れて、その女はいた。
彼女はその綺麗な体のラインが見えるぴったりとしたシャツとパンツを着ていた。その色は夜に紛れる黒で、今の彼女は境界を曖昧にさせていた。
人のいない夜の公園は、気持ち悪いぐらいに静かだった。晴れた夜空が黄色い光を地上に投げかけ、また公園に設置された電灯が瞬きながら地面を照らしている。
砂場で遊ぶ幼児は、女を振り返った。
彼女はそれまで悲しげにその様子を見守っていたが、すぐさま笑顔を形作って微笑みを返す。幼児も笑顔になって、彼女に笑いかけ、出来上がった山を誇らしげに女に見せた。
歪な形の、単純に砂を盛っただけの山。
幼児の傍らに膝を付けた女は、幼児がまた砂に手を付けるのをじっと見守る。
一度崩された砂山は、また歪な山になった。
その繰り返し。
嘆きの
暁と叫びの
海を越えて
真っ赤な血に濡れた赤ん坊は、産声をあげた。
泣く赤子を見つめる。
いきなり駆け込んで来た男の姿に医師や看護士が慌てたようにしていた。
自分の名前を叫びながら駆けてくる血濡れの子供が追い付くにはほんの少し、時間が必要だった。
母親の腹を割って生まれ出た赤子。
それを取り上げたであろう看護士が呆然とこちらを見ている。
そして。
嗄れた、高い音がした。
金属を引っかいたように耳障りで、途切れ途切れの声にならない音だった。
それを聞いたのは、二人だけだ。
一人は、赤子を取り上げた看護士だった。彼女はそれを聞いた瞬間に金切り声をあげた。恐怖に包まれた表情で、手に取り上げた赤子を凝視しながら叫び続ける。
もう一人は、呆然とそれを見ていた。
赤子を凝視し、それから敵わぬ情動を押し殺して、彼は首をゆっくりと振った。
赤子は泣き叫んでいた。
赤子は開かぬ目を閉じ、叫んでいた。
赤子は真っ赤な肌に皺を寄せ、うごめく。
赤子は大きな頭をぐらりと揺らした。
赤子は。
赤子は。
赤子は。
「 ま た あ え ま し た ね 」
綱吉は、両手で頬をかいた。
もう一度、大きく首を横に振って、それから彼は。
――――叫んだ。
___ ___ ___ ___ ___ ___ ___ ___
幼さの残る少年は、白い病室でずっとパイプ椅子に腰掛けている。
ここへ来た時から一度でも彼は動かなかった。
その眼差しは、じっとベッドで眠る男へと向けられていた。
黒いスーツを着た少年。ボルサリーノを深く被り、眼光を隠す。足を組み、腕を組んで、微動だにせず、彼は守るべき人をじっと、ずっと、見ていた。それは今だけではなく、昔からずっと。十年もの間、彼は彼を見続けてきた。誰よりも何よりも、彼の傍にい続けた。
燻る思いを胸の内に秘め、隠して、綱吉の幸せへと尽力し、影ながら綱吉を守り続けてきたのだ。
だが、と彼は思う。
今度ばかりはどうすればいいのか分からない。何から守ればいいのだろう。だって、彼は、きっとそれを望まないだろうから。
彼は、彼自身で決着をつけたがるに違いない。
それが、十年間ずっと、彼を見続けて来た少年の結論だった。
リボーンは、不意に脳裏に浮かんだ光景を慌ててかき消した。
橙の光る炎が産室を嘗め尽くす様も、その瞬間の彼のあまりにも泣きそうで痛々しい表情も。
見ていたいものではなかった、決して。
赤子を殺そうとする綱吉を押さえ、騒ぎを聞きつけた守護者らが彼を眠らせ、そうして今に至るのだ。
数時間前の話。まだ時間は経っていない。
赤子は、医師らの手によって、今は新生児室で眠っているはずだった。結局母親はやはり助からなかったが、それでも赤子だけでも、と叫んだ医師らの願いは叶った。字面だけでは感動ものに見える、しかしその裏に潜む毒々しい何かに、リボーンは苦しげに思いをよせた。
どうして綱吉が赤子を殺そうとしたのか分からない。
一人、パニック状態に陥っていた看護士がいたが、彼女の言葉は言葉として不確か過ぎて要領を得なかった。何が起こったのか分からないままに、時だけが過ぎていってしまう。
彼がこの部屋に入ってから初めて身じろいだその瞬間、小さなうめき声が病室に響いた。
「っ、ツナ!」
椅子を蹴倒して枕元に身を乗り出した。
薄っすらと開いた瞼の隙間から、いつもの琥珀が姿を現した。数回、震えるように瞬いてから綱吉の瞳がリボーンを映す。
「あれ……」
「気がついたか。痛むところはねぇか?」
ぼんやりとした表情の綱吉は、ぼう、と頷いた。
「別に。何で、俺」
一瞬にして、綱吉の表情が強張った。
「……、リボーン」
泣きそうに歪んだ目が、リボーンを見た。
答える言葉はなく、リボーンは綱吉を見返すしかない。
彼は、震える声音で尋ねかけた。
「どう、なった?」
主語がなくとも分かった。
彼が今尋ねているのは。
「マリアは死んだ。子供は生きてる」
綱吉は、答えなかった。
リボーンは事実のみを語るように注意しながら、続けた。
「医者達も全力を尽くしたが、助からなかった。彼女は元から体が弱かったから、耐え切れなかったらしい。今は、霊安室に安置してあるが……会いに、行くか?」
ぼんやりと虚空を見つめる青年の瞳から、透明な雫が流れ落ちた。
そっと瞳を伏せ、凍りついた表情のまま綱吉は、そう、とだけ呟いた。
それからまた、しばらく彼はそのまま、動かなかった。リボーンも口に出せる言葉など思い浮かぶはずなどなく、居心地の悪い沈黙の中でじっと沈黙に耐える。
重い永遠。白い壁。わずかに開いた窓から隙間風が入り込み、カーテンを揺らした。
時計が廻る音にふと、リボーンが気付いた頃、ようやく綱吉が目を開いた。
「……子供、は?」
綱吉は、リボーンと目を合わせようとしない。
ただ、天井を睨みつけるようにしたまま、もう一度その言葉を繰り返した。
訝しさを感じながらも、リボーンは答える。
「今は新生児室にいる。ザンザスと獄寺とハルがついてるから、安全だ」
「殺して」
端的に、延べられたその言葉に、部屋が凍る。
ひくり、と頬が引きつった。
「何、言ってんだ。ツナ」
「殺せ、って言ったんだよ」
苛立つように言った綱吉が上半身を起こした。頭が痛むのか、顔をしかめてこめかみを押さえた。
ぎろり、と棘だった瞳と、ようやく目が合う。
「リボーン」
一言、一喝。低く掠れた声で青年は名前を呼んだ。
強要するその声音に、反感がわく。粟立った肌には気付かぬふりをして、リボーンは口角を上げた。
「断る」
はっきりと言ってのけ、それから彼は足を組み、不遜な表情で綱吉を見据えた。
「俺は、沢田綱吉だ」
「知っている」
「ボンゴレの十代目」
「ああ、知っている」
「マフィアの頂点」
「そうだったな」
「俺には、権力がある」
ぽつぽつと呟くように言う青年を、睨みつけた。
「それをくれてやったのは、俺だ」
言い放ち、倒れた時のままのシャツの胸倉を掴み上げた。そのままぐいと引き寄せ、眼前にある苛立った瞳を渾身の怒りを込めて睨みつけた。
「俺に、命令するな!」
その瞬間に、琥珀がひび割れた。
「だったら、どうしたらいいんだよ!?」
消えたはずの、涙が流れ落ちる。
綱吉はリボーンの手を振り払い、のけぞって彼がまるで汚いものかのように距離をとった。
その様子を、リボーンは冷静に見つめていた。
「どうしたらいい!? 俺には殺せない、出来ないんだよ!」
首を振り、泣きながら叫ぶ綱吉は、両手で耳を塞いだ。
そのまま叫び続ける。
「だってマリアを殺したんだ! 俺はもう、もう別に良かったのに! 会いたくなんてなかった! 会うはずがなかったんだ! 会えるわけが無いから、だから俺は、マリアを愛したのに!」
「ツナ」
「なのに、どうして今更!」
目を見開き、周囲を遮断する綱吉は、リボーンにとって意味の分からない言葉を叫ぶ。
だけど、これだけは彼にも分かった。
今、とても、苦しんでいるんだということ。
縮こまるようにしてしゃくりあげる青年の耳から、優しく両手を引き剥がす。
それから呆然とする彼の頭に、優しく、手を乗せた。
涙と感情に濡れたまん丸な瞳が、リボーンを凝視するのを、優しく見返しながら、リボーンは笑った。
「ツナ、俺はお前の家庭教師だぞ」
優しく、頭を撫でた。
「お前が何を悩んでるのかは分からねーが、だけど俺は、お前の味方だぞ」
優しく、言った。
興奮して開いた瞳孔が徐々に小さくなっていくのを見ながら、リボーンは青年の頭を撫で続ける。
子供は、青年をあやした。
瞳を揺らし、喉を鳴らし、ひきつったような音を出した青年の喉。
これでいい。誰だって苦しい時はある。誰だって、辛くて泣きたい時があるに決まっている。
子供の胸に顔を押し付け、声を上げて泣き出した青年の頭を抱えながら、リボーンはそう言えば、と不意に過去を思い返していた。
そう言えば、彼が本気で泣いたことは、あまり無かった。
そりゃ泣きたいことがあったのは確かだろう。それだけの苦行を強いてきた自覚はある。けれどそれでも、あまり泣くことはなかった。九代目を殺したかもしれないと泣いたとき、その優しさこそが強さになるのだと思った。
強い涙はありこそすれ、弱い涙はあまり、見なかった。
泣きじゃくる青年は、弱い。
リボーンは、黙って、青年を抱き締めた。
* * * *
本当に、ごめん。
七年ぶりに会ったその人は、憔悴しきった顔をしていた。
骸様が死んでから今日で七年目。
クロームは、七年ぶりに主の主、ボンゴレのゴッドファーザーと対面していた。
ただし、ボンゴレの敷地内ではなく、街の小さな喫茶店の中で、その再会は行われた。
呼び出された彼女は、六年前と変わらぬ表情と態度で、綱吉の前に腰を下ろした。
「久しぶり、髑髏」
「お元気でしたか、ボス」
問えば、苦笑いが帰って来た。
去年の今日、ボンゴレファミリーには次期跡取となるべく男子が生まれたという話を、風の噂に聞いていたが、あまり、いい話は無かったのだろうか。男子が生まれたと言う噂はやはり嘘だったのか。
あの日から、ボンゴレを抜けた骸の配下はばらばらのまま、七年間を過ごしていた。
骸のいないボンゴレ。空虚な日常に耐えられなかった三人に気付いたのは綱吉で、彼は彼女達にボンゴレを抜けるように勧めたのだ。本来ならばボス自らがするような事ではないが、それでも彼女は、綱吉のその優しさがありがたいと思った。
一ヶ月、千種と犬と共に過ごしたが、しかしやはり埋めようの無い虚ろがあると毎日知らされるのが嫌で、結局三人は別々の道を選んだ。今ではもう、連絡もとっていない。
だから、今回クロームに綱吉から連絡が来た時は本当に驚いた。
彼女はもう、誰とも付き合い無く、ひっそりと生きていたのだ。
ボンゴレの情報収集力に驚くのと同時に、何故、今になって彼が自分を呼び出したのかが分からない。
趣味の良いこの喫茶店の一番奥の席で、クロームを出迎えた綱吉に、彼女はまず疑問をぶつけた。
「ボス、何かあったの?」
単刀直入に来るとは思わなかったのか、綱吉は一瞬狼狽した。そして曖昧に頷く。
「なあ、髑髏は、今でも」
言いよどんだ青年は、悲しげに眉根を寄せた。
「今でも、骸の部下だよな?」
発言の意図は分からない。
ただ、その声が震えているのに気付いた髑髏は、はっとして綱吉を見つめた。
何かを恐れるような表情。
ただ事でない、それだけが彼女には理解出来た。
綱吉の言葉を反芻した。
ああ、もちろんだとも。私の命は未来永劫、あの方のもの。
「ええ、ボス」
答えを返した瞬間に、綱吉の表情が大きく歪んだ。
今にも泣きそうな彼に驚く。
ボス、と問い掛けるように言えば、綱吉は一言、返した。
「ごめん、髑髏」
目をぱちくりとする。
戸惑う彼女をよそに、綱吉は口を開いた。
「ごめん、本当にごめん。だけどお願いがあるんだ。本当に、もう、俺は限界なんだ」
「ボス?」
「ごめん、髑髏。ごめん。
骸が、生きているんだ」
脳内が、真っ白になった。
思考は全て停止する。
景色も気配も音すらも、今のクロームにとって無いと同じだった。
彼の、言葉を脳内からはじき出したい。
そうであってほしいと願ったことはあった。
生きていてほしいと。
また、あの頃のように過ごしてみたいのだ、と。
だけどそれが出来ないから、諦めて、そして、今まで生きて来た。
綱吉の言葉が、嘘なのだ。
だって、だって。
骸様は、ボスを守って死んだ。
だから私達の、今があるのに。
「髑髏、お願いだ。俺を、助けて」
囁く声なのに、悲鳴に聞こえたのはきっと、気のせいなんかじゃない。
ああ、と彼女は理解した。
彼も同様に諦めていたのだ、と。
彼から聞いた事がある。
骸様の、最期の言葉を。
希望の言葉を残して、亡くなってしまった主。
その言葉を全身全霊をかけて信じられるほど、彼は子供ではなく、純粋でもなかったのだ。御伽噺を信じられるような子供じゃなく、彼は現実を知ってしまった子供だった。
会えるわけがない、はずがない。
死んでしまったら、それで最後。
だから彼は、彼の妻となった女性を愛して、そして新たな一歩を踏み出したのだろう。
その新たな道に、過去は、いらなかった。
どういう経緯で、主が戻って来たのかは分からない。けれど過去が、彼を苛んでいるのは間違いがなかった。
「ボス、骸様に、遭わせて」
意を決して、言った。
その、瞬間の、綱吉の表情はきっと死ぬまで忘れることが出来ないだろう。
「いいのか」
ぼんやりと執務用の机に肘をついていた綱吉は、その声に顔を上げた。
黒尽くめの子供は、感情の見えない表情で、綱吉を見据えていた。
主語の無い質問を正確に綱吉は理解した。
「うん、今は、これで」
「後悔するかもしれねーぞ」
「……そうかも、ね」
虚ろげに笑う彼は、自宅にいなくなった男児を思う。
一室に閉じ込めるようにして育てていたその男児は、一歳になる今日、男児と関わりの深い女性に預ける事になった。
今の綱吉には、それ以外の道を考えることが出来なかったのだ。
記憶の無くした子供。ただの赤子の、六道骸。
あの日の言葉から、赤子は六道骸らしい言葉を発すること無く、ただの赤子として育っていた。
赤子のように泣き、赤子のように笑い、赤子のように怒り、赤子のように食べ、赤子のように排泄し、赤子のように叫ぶ。
綱吉にとっては、まるで地獄のような日々だった。
彼との再会を祝うことが出来ない。祝わねばならないはずだ。この心は歓喜に震えなければならないはずなのに! だが湧き上がるのは、マリアを亡くした痛みと後悔、それからわずかの嫌悪感だった。
愛したはずなのに、なのに、彼を厭う自身の心が憎い。よじれるような苦しい気持ちを胸に秘めたまま、綱吉は一年間を過ごした。
今になって思うのだ。
自分はマリアを本当に愛していた、そしてまた六道も同じぐらいに愛していた。
だから、許せない。だから、彼女を奪った六道を許せなかったし、六道に殺された彼女を許すことが出来なかった。それが理不尽な言いがかりだとわかっていても、どうしようもなく複雑な心情を、理性で押さえる事が出来なかった。
気の狂いそうな程の感情の波に夜、泣き叫んだ日は数知れない。
そんな時に、不意に思い浮かんだのが、彼の配下であった女だった。
結果的に押しつける風になってしまったのは、後悔してもしきれない。彼女の心情を無視して、自分の安寧を追い求めてしまった。六道を忌んだ自分を憎んでくれてもいい。二人から憎まれるのも、綱吉は仕方無いと思っていた。
黙りこんでしまった綱吉にリボーンが近付いた。
そして、一年前と同じように、その頭を撫でる。
「都合良く聞こえるかもしれねーが、いつか、心の整理がついた時でいいから、迎えに行ってやれ」
顔を上げれば、優しく微笑む子供がいた。
「大丈夫だ、ツナ」
「……うん、そうだね」
いつか。
いつか、そんな日が来ればいい。
今は無理でも、いつか、心の底から笑って、彼を迎えに行ける日が来てほしい。
彼を信じきれなかった自分を、憎まずに済む日が、来れば、いい。
「くろーむ!」
たどたどしく言った言葉に、クロームは答える。
「どうか、されましたか?」
夜の砂場から駆け戻り、彼女に抱きついた砂まみれの幼児はにんまりと笑ってクロームを見上げた。
「もういい、帰ろう!」
暗闇の中で輝く瞳は、向かって右は深い海のような青、左は朝焼けの赤だった。
マリアから遺伝だろう。青みがかった黒い髪を撫でながら、彼女は小さな子供に微笑みかけた。
幼い彼は、まだ人間らしい表情を全て持っているわけではない。単純な感情をそのままに、顔に乗せ、クロームに笑み返した幼児は、じゃあ、とクロームに尋ねた。
「クロームはぼくのお母さんじゃないんだよね?」
「ええ、そうですよ」
「じゃあ、だれなの?」
「マリア、という方です」
あなたに、良く似ていた。
もしかすると、ボスはマリアという女性にあなたを重ねていたのかもしれませんね。
言葉に出す事は無く、心の中だけでクロームは呟いた。
じゃあ、と続ける幼児の言葉の続きは容易に想像出来た。
「お父さんは?」
ほら、やっぱり。
一瞬、どう答えるべきか迷った。
あの日から三年。一度も会うことの無い、あなたの主。
「……、クローム?」
「沢田、綱吉というお方ですよ」
「ツナヨシ?」
はい、と頷いて、クロームは幼児に視線を合わせた。
もしかすると、もうあなたに会いは来ないかもしれないあなたの父親であなたの追い求めているお方。
皮肉なことだろう、あなたが追い求めたからこそ、あなたは彼には会うことは出来ないのだ。
「どんな人?」
「優しくて、弱い人、強くて、弱い人……、あなたの、お父様ですよ」
不思議そうに、首を傾げた幼児はすぐに、笑った。
「会いたいなあ!」
無邪気に笑うそれに、クロームの心がずきりと痛んだ。
いいえ、いいえ、きっと会えない。
あなたはもう四歳になった。三年経っても、あの方は来ない。
もう、きっと来ない。
ああ、どうすればいい。
あなたが真相を知る日が来たとき、あなたが苦しまないようにするには、どうすればいいのだろう。
救われた人間なんて、誰も、いない。
*後書き*
何この鬱展開。
まあ、予定通りっちゃあ予定通りですね。最悪な感じで終わらせようと思っていたので。これで一応このお話は終わりです。
五部作になりましたが、途中で時間が開いたせいで脈絡の無い文になっていますね。夏休みにでも修正かけときます。ええ、もう色々直したいですよ。この話に限らず。
全く救いようの無く終わってしまった話です。
でも正直な話、いきなり戻って来られたって迷惑、というか困惑すると思うのですよ。だって今までいなくて、その通りに六年間も生きてきたのに、六年目に復活されても、ああどうすればいいんだって。まあ、その為に六年間、という数字にしたんですけどね。しかもその間、別の女性を本気で愛してて、しかも子供も出来ているとなれば、完全に綱吉の中で骸は過去の遺物として片付けられていました。会えるかもしれないけれど、本気で信じているわけはないです。彼は大人ですから。
そして誰かに預けてほっとしてしまえば、向き合うのが怖くなってしまうのが人間というものですよね。今ある安全からあえて抜け出すのにはかなり勇気がいると思います。
と、まあ後書きで解説が必要になるような文章を書くのはこれっきりにしたいと思います。はい。文章力の無さがありありと分かる悲しき解説。伏線や意図の解説じゃなくて、意味不明さに対する言い訳っていうのが嘆きどころですよねーあはははは。
それでは、お付き合いいただき、ありがとうございました。
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