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燃焼

   

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嘆きの暁と叫びの海を越えて③

偽物ドンカルカッサがいます。注意!!






 何かを、失った。

 何を失ったのかは、分からない。

 けれど僕は探し続ける。

 それが分かれば、きっと。


 僕は、この荒ぶりと高鳴りが何なのか、分かるような気がするのだ。






 嘆きのと叫びのを越えて





 その日、俺はボンゴレの大空の指輪を左手中指にはめ、そして主を亡くした霧の指輪を鎖を通して首からかけた。
 いつもの淡い色合いのスーツは着ない。黒色のスーツと同じ色のネクタイをしめ、同じ色の革靴をはいた。方々にはねている髪の毛は、今日ばかりはきっちりと整える。
 自室の姿見に映る自分は、陰気くさい。小さく息をつく綱吉を、カーテンの隙間から差し込む光が照らし出していた。
 もう一度、気になる所を直してから、綱吉は部屋を出て行く。

 墓参りに行かない綱吉の、せめてものけじめだった。





 ボスの喪服姿のせいだろうか、今日の屋敷は異常に静かだ。
 判をもらう書類を持って、山本はドンの執務室へと向かっていた。落ち着かない静けさに、ついつい腰に差した刀に手がゆく。鞘に触れては離し、をゆっくりと繰り返しながら、山本はようやく着いた執務室の扉の前で立ち尽くしていた。異質さを放つ扉。この向こうから漏れるぴりぴりとした空気が、屋敷を染め上げているのだ。気を重んじる剣士にとって、むしろ敵意と感じられる程に荒れたそれは、いつもの綱吉からは想像も出来ない。
 書類を片手に、山本は嘆息した。
 どうしようか。ぶっちゃけてしまえば、出来る限り今日のボスには近付きたくないのが本音なんだけどなぁ。
 けれどそうも言っていられない。
 さて、いざ行かん、と気合いを入れ直した時、扉が勝手に開いた。
「お?」
 正確には勝手に、ではない。
「……さっきから何やってんの、武」
 扉の向こうには、呆れ顔の綱吉がいる。廊下で止まったままの気配に、訝しんで覗きに来たのだろう。
 頭をかいて、山本は判をもらう書類を見せる。
「ドンのサインがいるんだ」
「わかった。入って」
 大きく開け放たれたそれを通って執務室へと入る。
 いつもと変わらないはずの部屋なのに、何故か壁が軋んでいるような歪んでいるような、そんな錯覚を受ける。歪みの中を平然と突っ切った綱吉は机からペンを取ると、部屋の中央で立ち尽くす山本の手から書類を受け取った。
 ざっと読み流し、内容に満足してから机の上でサインをする。書類を突き返せば、ゆるゆると受け取った山本が呻いた。
「武?」
「……え、あ……いや、マリアさん元気かなぁって」
 見え見えのごまかしだったが、綱吉は深く突っ込んでは来なかった。
 ふ、と微笑む姿は、温かい。刺々しい空気が緩んだのに気付いた山本は、心の中でほっと息をついた。
「昨日リボーンに行かせたんだけど、告げ口するぐらいには元気があるみたいだよ」
「ああ、それで昨日の夜の銃声か」
「ふふ、今更半殺しぐらいでがたがた言わないさ、慣れたからね」
「それってどうなんだ?」
 遠い目をする綱吉の頬には絆創膏が。
 十年が過ぎても、はっちゃけた師弟関係は変わらないらしい。微笑ましいと言うべきか。
 ひとまず用事は終わった。
「今日はまだ仕事か?」
「そうなんだよぉ」
 朝の書類仕事が終われば、次は午後のカルカッサが待ってるんだ、と泣き言を言う綱吉に、まあ頑張れと応援にならない応援をして山本は執務室を後にする。
 部屋を出て扉を締め、廊下の突き当たりを曲がり、執務室が見えなくなった瞬間に、山本は大きく息をついて、すぐ側の壁に背を預けた。
 天を仰ぐ。
 何て息苦しい空間だっただろうか。
 綱吉の内心をそのまま如実に現したかのような陰鬱で苦しげな空気。
 そして何よりも、その暗雲に怒りを覚える自分に腹が立つ。
 六道がどうした。あれはもう、過去の遺物ではないか。やつが死んでからもう六年目になる。死者なんか、どうでもいい。お前を置いていってしまうような奴より、今お前の隣にいる者を。

 俺達を、見てくれ。

 食いしばった歯が、ぎりりと音を立てた。
 綱吉が結婚すると同時に諦めたはずの思いが、衝動的に喉元まで込み上げる。
 荒れ狂う心と同時に、しかし冷静に判ずる部分もあった。
 きっと、恐らく、絶対に。
 綱吉が、六道を忘れる事は無い。
 それは単なる記憶という意味ではなくて、色んな思いを詰め込んだ体で、生き続けるという意味だ。
 壁から身を起こした。
 どう足掻いても、もうどうにもならない。けれど、綱吉はもう、過去にある程度の決着を付けたのだろう。だからこそ、結婚もし、子もなしたのだ。なら、その足を引っ張りたくはない。つまるところ、彼が幸せであればそれでいい。
 一つ、深呼吸する。
 声には出せない思いを吐き捨てて、それから新しい空気を吸い込んだ。

 それから歩き出した山本の背姿は、広い廊下にぽつんと浮いていた。





 彼は、『英雄』になった。

 大層な面目躍如だろう。
 何せ『汚点』から『英雄』だ。出世にも程がある。だからこそか、代償はとてつもなく大きかった。
 六道骸は、死をもってして英雄になったのだ。
 六道の葬儀はひっそりと、他人の目から隠すように小さな教会で明日の夜、行われる。ボンゴレの幹部と彼に十余年付き従う部下、そしてドンである綱吉しか参加しない。何しろ、元は復讐者の牢獄を破った脱獄者、マフィアの敵である男だ。盛大に、という訳にはいかなかった。
 綱吉の力が及ばない。ジャッポネーゼと馬鹿にされ、未だにボンゴレのドンとして君臨し切れていない彼が、六道骸の葬儀を盛大にすれば対外的に問題となる。
 進言した家庭教師に食ってかかるも、真実なのだから仕方がない。苦渋の決断だった。
 申し訳なさで泣きたくなる。
 喪服を着た綱吉は、冷たい石床に膝を付いて、棺の中に黒いスーツ姿で横たわる男の頬を撫でた。
 冷たく、固い。
 死者の感触が、彼の心を突き刺した。
 血の気の無い真っ白な肌。彼が頬を上気させて笑う事はもう無いのだと思えば、枯れたはずの涙が溢れ出す。
 綱吉を庇って撃たれた傷は、スーツの下に隠れてしまって見えない。
 もし、自分が撃たれていれば、と思わないでもなかったが、同時に、それは骸に対して失礼だとも分かっていた。綱吉は、生き続ける。今までそうしてきたように、自らのせいで死なせた命を背負って、何が何でも生き続けるのだ。
 涙を拭いて、笑みを浮かべる。
 これで、いい。
 腰を曲げて、冷たい唇に唇で触れた。
 たった数秒だけの、それ。
 だが、これでいい。
 立ち上がり、綱吉は棺を背にした。

 永訣、とは違う。

 何となく、超直感とは違う何かで、ぼんやりと感じていた。

 ――――――いずれ、逢える。






 神経質そうな、と言うよりはむしろパシリ気質な、と言うべきだろうか。
 初老の男に対して失礼な事を考えながら、綱吉はドン・カルカッサと握手した。
 ドン・カルカッサの隣にいる、じと目でこちらを見上げて来る子供は、綱吉と十年来の付き合いである。相変わらずのライダースーツ。ただし今日はヘルメットを付けていない。若干警戒気味なのは、リボーンに散々にからかわれてきたせいだろうか。一応助けはしていたのだが、どうやらリボーンの教え子=性格悪いと認識されているらしい。そんな事無いのになぁ。あんな大魔王と一緒にしないでくれ、甚だ不本意だ。
「この日が来て、本当に良かったと思いますよ」
 男の言葉に頷きを返す。
 随分と長かったが、これでようやく正式にカルカッサと同盟を組む事が出来る。
 顔には出さずに、そっと心の中で息をついた。
 品の良いレストランで会食。もちろん貸切だ。東極の一庶民では想像もしなかった贅沢ぶり。中学の頃の自分がこれを見れば何と言うだろう。きっと、悲鳴をあげて、慌てふためくに違いない。
「奥様がもうじきご出産だとか」
 それかけた思考を引き戻す声。
 綱吉は微笑んだ。
「ええ。予定日は一応明日なんです」
「そうでしたか! それはめでたい!」
 我が事のように、ドン・カルカッサが破顔した。
「なら早く終わらせなければ」
「いえ、ご心配には……」
「怒りを忘れやすい男とは違い、女性というものはいつまでだって覚えているのですよ」
 遠い目で苦笑いする男に、何か哀愁のようなものを感じ取った綱吉は黙って頷くに留めておいた。きっと色々あったに違いない。隣のスカルが、苛立たしげに指でリズムを刻んでいるところからして、最終的にばばを引いたのは彼のようだ。
 実際、既に細かな話し合いを終えてしまっている。今日の会食は、両ファミリーの親交が深まったというパフォーマンスに過ぎない。今までの対応とボンゴレの血のお陰で、ドン・カルカッサが度量が深く真摯に対応してくれる人だと言う事は分かっている。今日ばかりはお言葉に甘えさせてもらおう。
 大切な日に夫……父親がいないなど言語道断だ。
 前菜が運ばれ、談笑しながらそれを食べ終えた時だった。
 穏やかなクラッシックのオーケストラが流れるレストランに、突如として携帯の電子音が混じる。
「あれ」「おや」
「……俺か!?」
 スカルがあたふたとしながら携帯を取り出す。着信画面を見た彼は、瞬時に顔を引き吊らせた。
「……ボンゴレ」
 綱吉の方を伺うスカルは、泣きそうだった。
「先輩からなんだが……」
「リボーンが? 何で?」
「知るかっ」
「まあ、ひとまず出てみなさい」
 ドン・カルカッサに促され、嫌そうにスカルが通話ボタンを押す。
 そこからの彼の表情の移り変わりは目まぐるしいものだった。
 ざっと白くなった後に赤くなり、更には蒼くなり……。
 大方いきなり脅され、反抗した結果があまり芳しくなかったのだろう。
「は?」
 不意に、きょとんとした声をスカルが出した。
「……ああ……分かった」
 切断ボタンを押した後に、くるりと綱吉に向き直って一言。

「産気づいたらしいぞ」
「………………リボーンが?」

「あんたはアホかっ!? マリアさんに決まってるだろう!」
「マリアが!? ちょっと待て、何で俺には連絡が来ないんだよ、まがりなりにも旦那だぞ!?」
 まがりなり……とスカルが複雑そうな視線を寄越してくる横で、ドン・カルカッサがなるほどと頷いた。
「問答無用で帰って来いという意味ですかな」
「会食中なのに」
「まあ、ボンゴレ」
 穏やかに笑む男は立ち上がった。
「続きはまた後日という事にして……今日はお開きにしましょう」
「しかし、」
 ボンゴレ、と宥めるように男は言った。
「スカルに電話がかかって来たと言う事は、あなたが私達に誤魔化してしまわないように、と言う事でしょう。意味はお分かりですよね」
 綱吉が言葉に詰まる。
「かの有名な『リボーン』に、それだけ信用してもらえるとは、光栄ですよ」
 いたずらげに笑う男は、スカルから上着を手渡されるとその袖に手を通した。
 完全に会食は中止だ。
 ふう、と息をついて綱吉は諦める事にした。
 こちらも大切だが、あちらの方がもっと大切だ。
 そうと決めれば、途端に焦りが襲って来る。上着を羽織るのすらもどかしい。退席の挨拶もそこそこに、礼だけを言って綱吉はレストランを飛び出した。



 なるほど、と男は呟いた。
 何の話か、隣を見上げると楽しそうに見下ろす視線とぶつかる。
「……スカルが気に入る訳が分かったよ」
「べっ別に気に入ってる訳じゃないっ、巨大ファミリーのドンだから、敵に回さないようにしているだけだ!」
「まあまあ……いいじゃないか」
 男の視線の先には、綱吉が消えて行った扉がある。
 何とも、人間くさい人間だった。
 けれどそこが好ましい。

「あのドンなら、上手くやって行けそうな気がするよ」

 そして、二人は顔を合わせると、片方は渋々と、片方は満足そうに、頷いた。







 次で一盛り上がり……の予定。
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